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「あの女に人の心なんてない。あいつはバケモノだ」  腹の中の我が子を取り上げ、そのまま盗んでいった、本家奥の院の女。  祖母は連れ去られた子を思い出す度に、般若のような形相で女を罵った。 「あいつは人の子じゃあねえ。バケモノだ」  オギャアと産声を上げたその次に、ニッタリ笑った赤子。  「礼を言うよ」と舌足らずに告げた我が子の様を振り返る度に、祖父は恐れ慄いた。 「なにが実の兄弟だ。冗談じゃねえ。ありゃあ、バケモノだ」  奥の院の女(バケモノ)に盗まれた赤子(バケモノ)と三十余年ぶりに再会し、その父親と同じく、陰で"バケモノ"と呼んだ者がいる。  かつて肉親にバケモノと言わしめた赤子の、実兄である、オレの親父だ。  オレが親父の口からソレを聞いたのは、今年の冬の始め――やたら冷たい木枯らしの吹く日のことである。
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