青い紅茶を飲んで会いたい人にあってみませんか?

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青い紅茶を飲んで会いたい人にあってみませんか?

 秘密を秘めた喫茶店。ここには、客も知らない秘密がある。  お元気ですか? 私はなんとかやっています。毎日が忙しく毎日の生活に追われています。あなたはきっと変わっていないでしょう。そして、相変わらず不器用ながら好きなことをしているのではないでしょうか。  ここでの生活はきっとあなたには合わなかったのではないかと思っています。あなたは、不器用で、あまり人と関わるのが苦手だったし、勉強も苦手でしたね。アルバイトでも一生懸命やっているのになぜか解雇されてしまったこともありました。それでも次のアルバイト先を探して仕事をしようとする挑戦力はすごいと思います。アルバイトなんてしなくても困るような生活でもなかったのに。居場所が欲しかったのでしょうか。認めてほしかったのでしょうか。  なんとか入学できた高校では、部活中に怪我をしてしまい、選手としては活動できませんでしたね。あなたは大きな手術をしたのですが、結局、重いものは持てないといわれましたね。男の子で重いものが持てないということは、職業の選択肢が狭まりますね。  将来の進路も不確定なまま、あなたはスポーツがだめならば音楽の道を選ぼうと思ったのですね。いつも希望を持ち、果敢に挑戦する姿は勇ましい姿だったと思います。  あなたは18歳になる3日前に亡くなりましたね。それは、寒い寒い冬の日でした。でも、あなたは病気で、結局治らなかったのです。亡くなる前日に自転車で遠くにも出かけていたし、普通の高校生のような生活でした。しかし、とても難しい病気だったのでしょう。まさか、バイト用の写真が遺影になるなんて……。残された家族にとっては、それからの日々はとても過酷で辛いものとなりました。  専門医もあまりいなかったのではないでしょうか。何も治療をしないことが治療だという馬鹿げた医者の見解に憤りを感じます。しかし、病は自力では止められなくなっていましたね。社会で適応できない分、親への反抗がひどかったように記憶しています。  幼少時から教師から怒られてばかりで、できないことを否定する大人に疲れてしまったのかもしれません。10代の病は進行が早いそうですね。病気になってわずか半年くらいでしょうか。命が刈られたのはあっという間のことでした。あの日、祖父母よりも早くこの世からいなくなったあなた。そのあとから、両親の嘆き悲しみは終わりません。  検察医によると亡くなっていたのは朝方だったそうですね。夕方になるまで気づきませんでした。半日も経過してから、救急車を呼び、医師が瞳孔を事務的に確認して、そのまま病棟へ医師は消えました。もちろん、警察の事情聴取もありました。事件性があるか一応確認するのですね。  治療しても治らなかっただけだったのです。誕生日には外食しようと言っていたのですが、それは永遠にかなわなくなってしまいました。  お墓に納骨するときに、雪がその時間だけふぶきましたね。2月の寒い冬でしたね。入るのが嫌だったのでしょうか? それは遺族の思いだったのでしょうか?  もし、過去に戻ることができたら、ただ、普通に話して普通に会ってみたいですね。会えるだけでいいのです。死に際に会えなかった祖母にも会いたいですね。きっとおばあちゃんと仲良くあの世で生活していることと思います。                たった一人の姉より ♢♢ 「素敵なお手紙ですね。姉からの気持ちが伝わりました」 喫茶店の店主がじっくり手紙を読み上げた。  趣のある喫茶店の中でひとりの女性客と男性店員が会話をしている。そこはなにやら特別な場所のようだ。 「この手紙をこの喫茶店に送ってきたのはあなたですか?」  美しい男性が女性客を見てほほ笑む。 「ここには青い紅茶があって、それを飲むと会いたい人に会えるそうですね」 「正確に言えば、会いたい人がいた時に一時的に戻ることができるとでもいいましょうか」 「しかし、本当の過去ではなく、あなたが思い描いている過去なので、過去の自分と遭遇して困るということはないのです。しかし、夢を見ているのとは違うリアルな世界です。痛みや味覚や嗅覚などは本物と同じです」 「では、その世界にいきたいのですが。過去に戻るためには思いを込めた手紙が必要なんですよね」 「拝見しました。手紙を読んで、あなたを過去に戻る許可をしたので、今日は招待いたしました。あなたが行きたいのは20歳のころでしょうか?」 「そうですね、戻らせてください」 「一時的な快楽にしかなりませんし、今は変わりませんよ」  美しい青い紅茶が出された。これを一口飲むと、色が変わるらしい。どんな色になるのだろう? それは飲む人によって色合いが変化するらしい。私の紅茶は何色に変化するのだろうか? 「じゃあ、行ってきます」 「もちろんですよ。ここは心の拠り所ですから」  何かが変わるわけではない、一時的に欲求が満たされる場所。それは自己満足にすぎないかもしれない。でも、私は再び訪れるだろう。ただ、会うために。紅茶を一口飲むと女性は夢の世界へいざなわれる。 その後、店主は独り言を言う。 「この喫茶店は死んだばかりの人間しか利用できないので、何度も来ることはできないのですが、彼女は自分が死んだことに気づいていないみたいですね。そんなお客様はたくさんいるので、珍しいことではありませんが……。誰しも生前、戻りたい場所、会いたい人がいるものですから」 人生最期に騙される、でも幸せならばありじゃないでしょうか?
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