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4日目
「この前、スーパーに行ったんだよ」
右近寺優が天を仰ぎながら話し始めた。
「それで俺マイバックを持ってたから、レジ袋いりませんの札を置いてたの。そしたら、総額から二円引いてくれて、得した気分になったんだよ」
なんとも掴みどころのない話だ。
反応に困っている俺を放って、右近寺はマイペースに話を続ける。
「それで別の日、別のスーパーに行ったんだけど、その日はマイバックを持っていくの忘れちゃってさ。そこではスーパーの袋を使用する場合、三円とられるんだよ。なんか損した気がした」
ようやく話の方向性がわかってきた。
「一方は値引き、もう一方は加算。この差ってどうなんですかって話?」
「うん、そう。でもさ、値引きするスーパーて、袋を持ってこない前提でやってるんだよ。持ってきたら安くしてあげますよーって。それに対して、お金をとる方は、持ってくるのを前提でやってる。持ってこないと金とるぞって。環境のことを考えたら、きっと後者の方がマイバック持参率が上がると思うんだ。北風と太陽って話があるけど、この世の中って北風の方が強いんだな」
普段から理屈っぽい奴だなと思っていたが、こんなことを考えているとは思わなかった。
「なるほど。考えさせられるな」
これぐらいしか言うことがなかった。その通りだね、としか言いようがないのだ。
この反応に対して、右近寺は特に不満に思った様子もなく、相変わらずのんびり話をする。
「だからさ、北風に吹かれるように、毎日毎日文句を言いながら練習を頑張ってる俺たちもパワーアップしていて、新人戦で坊主集団に勝てるんじゃないかなって」
どうやら数日前に話した、来週の新人戦の相手が強豪校疑惑をまだ引っ張っていたらしい。
「そうだな、頑張って練習してるもんな。勝てるかもしれないな」
そう返すと、右近寺は妙に勇ましい顔で微笑んだ。これがまた夕陽に照らされてカッコいいこと。
「おうよ、明日も頑張ろう」
不可思議な方向から始まったこの話は、予想だにしなかった爽やかな終着点に辿り着いたのだった。
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