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クロくん、いるかな?
中を覗いても彼の姿は見当たらない。
受付に名前を書いてから、クロくんの世界観に入ってみた。
「すご……」
思わず漏れる声。
プラネタリウム? 広がる宇宙?
まるで、一枚一枚の絵が繋がって、大きな本物の夜空のように見えてくる。
星座が輝いて見えるのはブラックライトなのかな?
天井まで貼られた絵をグルリと見回して。
飲み込まれてしまいそうなその世界観に見惚れたまま突っ立っていたら。
「お気に召した絵はありましたか?」
声をかけられて我に帰る。
「あ!」
いつの間にか、クロくんが後ろに立っていた。
「何か、すごいね! ゴメンね、私、語彙力がなくてうまく言えないんだけど。壮大で、宇宙てこんななのかな? って。まるで本物の宇宙にいるみたい」
「ありがとうございます!!」
嬉しさ全開で、大きな口で笑っているクロくん。
白いシャツに黒い細身のパンツ姿、ベージュのコートを羽織った本日もまたまたオシャレなクロくん。
三度度会って三度とも完璧なオシャレさんだわ、うんうん、と妙な感心をしつつ、クロくんに罪滅ぼしセットのお土産袋を押し付けた。
「予定、ちゃんと確認してなくて。昨日はおばあちゃんの法事があって地元に帰ってて。今日は十五時まで後輩たちとランチビュッフェの約束もあって。昨日来るって言ってたのに、嘘つくようなことになっちゃって、本当にごめんなさい、大分遅くなりました!! お詫びにこれを」
「あ、それで差し入れ? 気にすることなかったのに! でも、稲城屋の煎餅、オレこれ好きッス」
「良かった。おいしいよね!」
ホッとして笑顔のクロくんを見たら。
「やっぱ来ないよなー、て思ってて」
「え?」
「昨日来なかったから諦めてたんです。彩未センパイきっと忙しいんだろうなーて。だから今めっちゃ嬉しいです。忙しい中、時間割いて来てくれて、本当に本当にありがとうございます!!!」
「自分の予定把握できてないのに返事しちゃってて、ごめんなさい。本当にごめん」
ありがとう、ごめんなさい、こちらこそ、とお互いにペコペコしてから苦笑して、それからクロくんに案内してもらった。
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