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序章
ここは五の大国に囲まれた小国、霞弦。
中立を保つ霞弦は五の大国らにとっては緩衝材の役割を担っている。
霞弦は、貿易の起点として積極的な異文化交流を図ることで自国を潤してきた国であった。
異文化と異文化が複雑に交じり合い、新たな芸術を生み出して来た結果、人は王都、正弦を『芸術の都』と呼んだ。
中でも、霞弦の神楽舞は秀逸。
あまたの宗派にもれずに尊ばれているほど、神技と誉れ高いものである。
そして、そんな楽舞こそが霞弦の国立ちの源泉でもあった。
昔々、五の大国は共に鬩ぎ合い戦乱の渦中にあった。
終わりの見えない闘いで地は疲弊し、人々は狂乱に陥っていた。
そんな世を嘆いて、慰みの琵琶を奏でて旅をしているのは、一人の法師。
やがて法師は国々の境界にあった湖の孤島に小さな庵を構え、還らぬ死者を悼み、夜毎琵琶を奏でるに至った。
満月のある夜、法師の琵琶の音に誘われて、湖上に天女が舞い降りる。
その舞は繊細でいて大胆。
うっとり見とれるほど優美でありながら、時にその迫力に戦慄が走るほどに勇猛だった。
その日から夜毎天女は現れ、舞いを舞った。
その噂は瞬く間に五大国中を広がり、各国の王はその天女と琵琶法師を自国に迎え入れようと兵を差し向けた。
けれどその後、自国へ帰る兵は一人としていなかった。
その舞いを見た誰もがその威光に平伏したのだ。
武器を捨てたばかりか、天女と法師のためにそこに新たに国を作った。それがここ不可侵の多民族国家、霞弦の太祖だといわれている。
やがて老いた法師は天女に連れられ、楽仙として天へ迎えられることになった。
そして、今でもふらりと人界に降りては、気紛れに舞楽の手ほどきをしてくれるのだという。
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