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感謝
アイを失った私は、悲しみに暮れました。
家に帰ると、今でもアイがお出迎えしてくれるのではないかと、いつもそう思ってしまうのです。
あり得ない妄想をしながら、一人寂しくソファに座り、アイとの思い出を何度も思い出しながら泣く……それの繰り返しです。
それが一週間も続いた次の日、いつも通りに仕事が終わって家に帰ろうとする私。
妄想と現実に押しつぶされそうになっている私に、ふと……声が聞こえました。
足元を見ると、そこには小さな子ネコがいました。
アイとは似ても似つかない毛並みと声を持つ子ネコ。
でもその子は私に向かって「ナァ」と嬉しそうに鳴き、頭をこすりつけてきました。
その声と仕草で私は悟りました――この子は毛皮を着替えたアイだと。
悲しみ、絶望の底に沈む私を心配して、アイは戻ってきてくれたのです。
小さなその子を抱き、私は涙を流しました。アイにもう一度会えたのだと。嬉しくてたまりませんでした。
おかえり、アイ……また会えたね……っ!
それに応えるように、その子は「ナァ」と鳴き、頭をすりすりしてくれます。
ありがとう……ありがとう……!
また私に会いに来てくれて……ありがとう……!
アイは毛皮を着替えて帰ってきてくれた――別のネコとして生まれ変わって戻ってきた。
だから私は別の名前を付けてあげました――『ハル』と。
以前のアイのようにお行儀は良くないけれど、私にもう一度春をくれたハル。
今度こそ、幸せにしてみせるからね。
ご馳走もいっぱい食べさせてあげるからね。
だからこれからもう一度、一緒に、楽しく暮らそうね……ハル。
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