出会い

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出会い

 一週間前、私は――大切な家族を失いました。  その子はネコでした。キジトラ模様のどこにでもいる、普通のネコでした。  その子との出会いはよく覚えています。雨の日の夜でした。  仕事から帰っている途中に鳴き声が聞こえたのです。小さな声でした。  いつもなら気にならないはずなのに、何故か気になった私は鳴き声がする方に足を向けていました。  鳴き声が聞こえるのは近くの公園――そこの一本の木の下にその子はいました。雨に打たれながら必死に寒さを耐えている子ネコでした。  親とはぐれたのでしょう。母親を呼んでいるようですが、母ネコは来ません。見捨てられたのでしょう。  小さな、小さな命。このままではいずれ死んでしまいます。  ――気が付けば、私はその子を抱いて病院へ走っていました。  自分のことで精いっぱいのはずなのに。他のことなんて考えている余裕なんてないのに。  でもそうしなければいけない、そう思ったのです。  病院へ連れて行った子ネコは、衰弱しているものの命に別状はないと言われました。それを聞いて、私は安心しました。  だったら後は心配ない――用が済んだ私は家に帰ろうとすると、ふと先生に呼び止められました。 「あなたはこの子を飼わないんですか?」――と。  予想外の言葉に、私は目を大きくしました。「私が?」と。  考えれば当たり前のことです。小さな子ネコですから、誰かが保護をしなければいけません。関わった私が最後まで面倒を見るのは当然のことです。  でも私は自分のことで精いっぱいなのです。  そもそも、私が面倒を見なくても、きっとどこかのボランティアの方が保護をしてくれるはずです。里親が見つかれば、その子は里親の元で楽しく、幸せに暮らせるはずです。  しかし……何故でしょうか、こう考えてしまうのです。  もし――里親が見つからなかったら?  もし――里親が見つかっても、いじめられたら?  もしそうだったら……この子はどうなるの? と。  可能性で考えれば限りなく低いでしょうが、しかし万が一と言うこともあります。そうなってしまった場合、その子が死ぬのは私のせいです。私が殺したのも同然です。  私の勝手な考え一つで小さな命が消えてしまう……なら。どうすれば良いのか、それはもう決まっています。 「私が、飼います」  私は、子ネコを迎え入れることにしました。
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