25-14

1/1
前へ
/233ページ
次へ

25-14

「あーもう、昔の女癖がー、とか、どうせ遊びだー、とか言ってたの何だったのよ」 「ごめんって。そういう言い訳しかなかったんだもん」 「まあまあ、それが言い訳だってわかったんだから、それでいいよね?」  しおんが窘めて、聖名は膨らませていた頬を引っ込める。彼女とて、本気で裕奈を非難しているわけではない。 「しょうがない。もういっちょ協力しますか!」 「お願いします」  裕奈は深々と頭を下げる。人に頼ることが苦手な裕奈が、きちんと頭を下げてこうして自分たちを頼ってくれる。彼女が大人になったということもあるし、それだけどうにか解決したい件だということでもある。 「じゃあ…まず、彩人くんのパパはユウセイさん」 「うん」 「なんかアレだよね、血は争わないってやつ?」 「偶然でも同じヴォーカリストになったのってすごいよねぇ」 「あたしも、ヴォーカルでオーディション通ったって聞いた時は、マジか!? って言っちゃったよ」  それは遺伝子に組み込まれていたものなのか、環境の影響なのかはわからないが、しおんにはなるべくしてなったように思える。 「でも、裕奈も結構上手いしさ、彩人も絶対上手くなるわ」 「すごい血筋だよね」 「血だけじゃダメでしょ。本人の努力」  流石に裕奈は厳しく判断をする。そして。 「でも、今努力してるから、近いうちに驚かせるよ」 「楽しみにしとくわ。で、その彩人に、どうやってユウセイさんの存在を知らせるか」 「彩人の方は、多分問題ないと思う」 「そうだよね?」  彩人は、父親がどこかに存在することは知っていても、誰が父親なのかを知らない。  既に23歳なのだから、思春期までの不安定な時期のような心配はしなくても良いだろう。  事情を話せば、ちゃんと裕奈がした選択の意味も理解してくれるはずだ。  それに、裕奈に恋人が出来ることを望んでいた彼だ。彼女が結婚する相手が実の父親ならば、更に歓迎してくれるのではないか。 「うん。彩人には、あたしが死ぬまでには話してやろうと思ってたし」  冷たい父親ではなかったのだと、彩人を見捨てたわけではないのだと、それだけは伝えたかったのではないだろうか。  裕奈がどれだけ愛した男だったのか。それだけは。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加