24人が本棚に入れています
本棚に追加
25-14
「あーもう、昔の女癖がー、とか、どうせ遊びだー、とか言ってたの何だったのよ」
「ごめんって。そういう言い訳しかなかったんだもん」
「まあまあ、それが言い訳だってわかったんだから、それでいいよね?」
しおんが窘めて、聖名は膨らませていた頬を引っ込める。彼女とて、本気で裕奈を非難しているわけではない。
「しょうがない。もういっちょ協力しますか!」
「お願いします」
裕奈は深々と頭を下げる。人に頼ることが苦手な裕奈が、きちんと頭を下げてこうして自分たちを頼ってくれる。彼女が大人になったということもあるし、それだけどうにか解決したい件だということでもある。
「じゃあ…まず、彩人くんのパパはユウセイさん」
「うん」
「なんかアレだよね、血は争わないってやつ?」
「偶然でも同じヴォーカリストになったのってすごいよねぇ」
「あたしも、ヴォーカルでオーディション通ったって聞いた時は、マジか!? って言っちゃったよ」
それは遺伝子に組み込まれていたものなのか、環境の影響なのかはわからないが、しおんにはなるべくしてなったように思える。
「でも、裕奈も結構上手いしさ、彩人も絶対上手くなるわ」
「すごい血筋だよね」
「血だけじゃダメでしょ。本人の努力」
流石に裕奈は厳しく判断をする。そして。
「でも、今努力してるから、近いうちに驚かせるよ」
「楽しみにしとくわ。で、その彩人に、どうやってユウセイさんの存在を知らせるか」
「彩人の方は、多分問題ないと思う」
「そうだよね?」
彩人は、父親がどこかに存在することは知っていても、誰が父親なのかを知らない。
既に23歳なのだから、思春期までの不安定な時期のような心配はしなくても良いだろう。
事情を話せば、ちゃんと裕奈がした選択の意味も理解してくれるはずだ。
それに、裕奈に恋人が出来ることを望んでいた彼だ。彼女が結婚する相手が実の父親ならば、更に歓迎してくれるのではないか。
「うん。彩人には、あたしが死ぬまでには話してやろうと思ってたし」
冷たい父親ではなかったのだと、彩人を見捨てたわけではないのだと、それだけは伝えたかったのではないだろうか。
裕奈がどれだけ愛した男だったのか。それだけは。
最初のコメントを投稿しよう!