25-16

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「そんな結婚詐欺にやられたのに、ユウセイさんは裕奈ちゃんと結婚したいって言ったんだよぉ? どんだけ裕奈ちゃんのこと信用してると思う?」 「だね。裕奈から聞けば、彩人が自分の子だって確実にわかるだろうし、ちゃんと受け入れてくれるよ」 「そうかな」  聖名と顔を見合わせ、同時に力強く頷く。 「まだ、あと30年とかあるよ? 今までの時間より長いんだよぉ?」 「うん。今から30年…ユウセイさん長生きしそうだからもっとかな。親子でいられるんだよ」 「少しでも、その時間長くしよ。早く教えてあげたら、その分、時間がとれるんだから」  見開いていた裕奈の瞳は、瞬きを忘れたかのように止まる。そして、伏せると同時に涙が零れ落ちた。 「…だよね。その時間を、これ以上あたしのわがままで減らしちゃいけないよね」 「それこそ、ほんとのわがままだよ。彩人が出来た時のは、わがままじゃない。あんたが大事なものを全部守る為の手段だったんだからさ」  聖名が優しい声で語りかける。ずっと一人で全てを抱え込んで来た親友が、やっと幸せになれるかもしれない。それが聖名にとっても幸せなのだというように。 「今がチャンスなんだよ? 彩人には本当の父親が現れて、ユウセイさんには念願の息子が出来て、裕奈と一緒になれて。で、裕奈はずっと好きだった人の近くに行けるって、一気に大逆転だよ」 「うん。何も悪いことがないよ?」 「でも…」  裕奈は言いかけて、言葉を止める。 「ユウセイさんが否定したら、って言いたいんでしょ」  聖名が繋いだ言葉に、彼女は頷く。 「怖いのはわかる。でもさ」  聖名は腰を浮かせて手を伸ばし、裕奈の頭を撫でる。 「ユウセイさんも、彩人も本当のことを知る権利がある。それをやり遂げるだけでも、あんたはデカい仕事をしたってこと」  裕奈は聖名の顔を見上げて、じっと目を見る。 「万が一そんだけでも、あんたは凄いよ。あたしが褒める」 「俺もね」  笑いかけると、裕奈もやっと微笑みを取り戻す。 「ま、ほぼ確実に喜んでくれる気がするんだけどね」 「うん。そもそも彩人くんが実の子でもそうじゃなくても、ユウセイさんは裕奈ちゃんの全部を引き受けるくらいの度量はあるでしょ?」 「あはは、どうかな、それは。懐が広いっていうか緩いっていうか…」  そう言う彼女の頬には、ほんのりと赤みがかかっている。 「…何でもウェルカムだからなぁ」 「だから、そういうとこが人間が大きいんだよぉ」  しおんがにこっと笑うと、裕奈も笑う。 「明日のツイキャス終わったら、まず彩人に話すよ。それから、ユウセイさんに会う」 「裕奈は心配しなくていいからね? いい結果だけ考えよう」 「そうそう。大丈夫だよぉ」  頷いて返した裕奈の顔は、とても明るく輝いて見えた。
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