26-2

1/1
前へ
/233ページ
次へ

26-2

「そう言えば、こないだの客入れもデッドエンドだったなぁ」 「メンバーに好きなヤツがいんだな」  開場からライブの開始までの間は、何がしかのBGMが流れていることが通例だ。それはメンバーが好きなアーティストだったり、そのアーティストのアルバムだったりと、選曲に決まりはない。 「若ぇのに、いいの選ぶじゃねーか」 「ね。あ、ガスタンクになった」  これも同世代のバンドだ。パンクの血を引くこのバンドも、ヴィジュアル系の初期に強い影響を残している。どちらも、しおんは一通り聴いている。 「わかるファンいんのか?」 「いないかも、流石に」  開始から暫く待っても、画面はそのままだ。コメント欄がざわつき始める。 「どうしたんだろ。トラブってるわけじゃなさそうだし」 「おかしいな。まあ、もうちょい待つか」 「うん。そのうち何かアナウンスあるかもね」  それからも、まだその2バンドの曲が代わる代わる流れ続ける。  しおんがコーヒーを入れて戻って来ると、不意に音量が下がる。そして、女性の声でアナウンスが流れる。 「本日はベルノワール、Isolation act.2へ御来場頂き、誠にありがとうございます」 「えっ、5分押し!?」  ライブスタートの5分前に流れる、お決まりのアナウンスだ。女性の声はいつも通りの注意事項を淡々と読み上げる。 「間もなく開演致します。今暫くお待ち下さいませ」 「完璧な5分押しだな」 「まさか、ライブやる気じゃないよね…」  無観客で、ライブを配信する。他のアーティストがやっていないことはないが、簡単に出来ることではない。しかも、ツイキャスで流すとなれば、完全に無料だ。 「すげーな。マジかよ」  和馬にはそれがどんなことなのか、はっきりと理解出来る。唖然として、画面を眺め続ける。  19:00ジャスト。BGMがぱたりと途切れる。静まり返った画面から、彩人ではない、綺悧の低く押し殺した声が聞こえた。 「ようこそ。僕の実験室へ」 「ヤバ…」  完全に、前回のライブのオープニングと同じだ。彼らは、本気でライブをやるつもりだ。  低く唸りを上げるベース。そこに重なる、金切り声のようなギター。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加