26-3

1/1
前へ
/233ページ
次へ

26-3

「愛せないなら、殺しましょう」  綺悧の声をきっかけに、一気に雪崩込む雷鳴のようなツーバス。画面が突然真っ白にフラッシュする。  ツイキャスの音声では限界があるけれど、それでも激しい音圧に押し倒されそうだ。  しおんは音量を上げる。  照明が落ち着くと、画面には5人が映っている。恐らく、どこかのレコーディングスタジオだ。  ライブの立ち位置と同様に、それぞれの位置に立ち、カメラに向かってメンバー達が煽る。 「最前ドセンってわけか」  和馬の言う通り、真正面から、何の障害物もなくライブを見ている感覚だ。足りないはずの、ファンたちの歓声や熱気まで感じる。  このツイキャスを見ているファンたちの熱気が、回線を通じて伝わってきているのかも知れない。  激しく、しかし切ないその曲が終わる。  少しの間ののちに、綺悧がMCを始める。 「こんばんは、ベルノワールです!」  先程までの切なさに満ちた表情とは一転し、彼はにっこり笑う。そして、少し真顔に戻る。 「今日予定していたIsolationが中止となってしまい、楽しみにしていて下さった皆様には本当に申し訳ありません。皆様の健康が第一と考え、このような決断に至りました」  綺悧の表情は苦しそうだ。中止の決定に涙を流したという彼だ。どんなにか悔しかっただろう。  左端で俯いている宵闇の表情はわからないが、他のメンバー達も綺悧と同様に唇を噛み締めている。  それだけでも、彼らがどれ程このライブに力を入れていたかがわかる。 「その代わり、にはならないかもしれませんが、今日はこうしてスタジオライブをお届けさせて頂きます。録画も残すので、次に会える時まで楽しんで下さい」 「やるじゃねーか」  和馬はニヤリと笑う。 「いい根性だよ」 「うん。カッコいいね」  ライブに対する彼らの執念が、このオープニングに感じられる。  一つ息を吸い込んだ綺悧は、曇った表情を振り払い、笑顔になる。 「と、いうことで。1曲目はアルバムに収録する新曲第2弾、籠の鳥でした! どうですか?」  そうカメラに向かって尋ねると、両耳に掌をつけ、レスポンスを聞いているようなアクションをする。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加