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「うんうん…って聞こえないんだけどね!」  明るく笑って、舌を出す。 「今日はこうやって、ライブの体勢になっちゃってるから、リアタイでコメント読めないんだ! ごめん! 後でちゃんと、皆で読むからコメント入れてね!」 「一応、そこに画面出してんだけど」  上手(かみて)ギターの朱雨が、カメラの横辺りを指さす。 「遠くて読めねぇんだわ」 「朱雨くん、近く行って読んでていいよ」 「おい待て、完全に見切れるだろーが!」  下手(しもて)ギターの礼華がくすくすと笑う。ライブの雰囲気そのままだ。 「映りたい?」 「映らなかったら、俺何しにこのカッコなんだよ」  全員、メイクと衣装をフル装備したライブ仕様だ。確かにここまでして映らなかったら、何をしに来たかわからない。 「朱雨はそこでコメント読み上げてろよ。イヤモニに流してくれたらいいわ」  夕がニヤつきながらからかうと、朱雨は後ろを振り向いて返す。 「だから、何の為のメイクだっつーの!」 「趣味じゃねぇの?」 「趣味と実益兼ねてんだよ!」  綺悧はケタケタと笑って、カメラに向き直る。 「今日はフルライブ出来なくてショートバージョンになるけど、楽しんで行って下さいね!」  そして、メンバーを振り返る。 「じゃ、いい? 大丈夫?」  各自が頷くのを確認して、綺悧がカメラに囁きかける。 「Capsule」  バスドラムが4分音符を重く刻む。そのビートにスネアドラムとフロアドラムが乗り、ベースが入る。  重い空気感で始まり、地を這うようなヴォーカル。  ギターが合流し、どんどんとカプセルの中に追い詰められて行くような、息が詰まるような展開が続く。  精神的に限界が来てしまいそうな、狂ってしまいそうな、そのギリギリで、固く閉ざしていたカプセルが弾け飛ぶ。  突然の転調で解放感を味わうけれど、ヴォーカルが歌うのは無限の絶望だ。
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