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25-5
ベルノワールらしいな、と思う。極限の閉塞感と絶望感で聴く者を叩きのめすさじ加減が、とても上手い。
曲と歌詞は全て宵闇が書いているらしい。彼のこのセンスは、飛び抜けていると言えそうだ。
続けて、シングル曲のHate or Fateだ。やはり、最新曲だけあって完成度は高い。幾度も音源は聴いているし、前回のライブでも見たが、またブラッシュアップされたようだ。クオリティが上がっている。
音源は精一杯やったという感じがそこかしこに見えていたが、今は余裕さえ感じる。
ギターソロで前に出る、ツインギター。近寄れば刺し殺す、という目でこちらを射抜く朱雨の隣で、聖母のような微笑みをたたえる礼華。正反対の二人のギタリストがオーディエンスの喉元に突きつけるのは、憎悪か運命かの選択。
熱い溶岩流に飲み込まれるようで、体が熱くなる。まるで、ライブの現場のようだ。
夕が自由に打ち鳴らすライドシンバルが、終わりを告げた。
「ありがとうございます!」
綺悧がいつものテンションに戻ったのを見て、しおんもはっとする。彼らのライブに引き込む力は、強力だ。すっかり見入ってしまっていた。
「えーっとね、今、ベルノワールはレコーディング中なんですけど、快調…って言っていいですか?」
綺悧が宵闇に視線を送ると、宵闇は鷹揚に頷く。
「快調です! 今までは、曲を全部作って、ドラム録って、ベース録って、ギター録って、ヴォーカル録るっていうやり方してたんですけど、今回違うんですよ」
レコーディングの話題に興味を引かれたのか、和馬が少し体を乗り出す。
「曲作って、あれこれ録って、曲作って、みたいな感じで、まだ全曲揃ってなくて、俺も全貌がわからないんです」
「昨日は俺がドラム録ってる隣のスタジオで、綺悧がヴォーカル録ってたな」
夕が状況を話すと、綺悧が頷く。
「そんな感じなんで、宵闇さんめちゃめちゃ忙しいですよね?」
宵闇はもう一度頷く。ライブ中の宵闇は全く口を開かないし、表情を変えない。
「朱雨くんと礼華くんは? 暇だった?」
「暇じゃねぇよ」
朱雨が返すと、綺悧は聞き直す。
「昨日何してた?」
「俺と礼華はスタジオ入って練習してたよ。真面目だから」
「そうなの? 礼華くん」
振られた礼華は微笑んで頷く。
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