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26-8
「笑点か!」
「では朱雨くん、レコーディングがない日の夕さんは何をしてる? どうぞ!」
「ピーをピーしてピーしてる!」
「待てこらおい!! 俺のイメージ!!」
夕がドラムセットの中で立ち上がって抗議するが、2人は顔を見合わせて笑っている。
「いやー、放送禁止過ぎたねー」
「ピー間に合わねぇかと思ったわー」
「いやいやお前、口でピーって言ってたからな!! 礼華! 座布団全部持ってけ!!」
「どこの座布団?」
このやり取りが、案外和馬のツボにハマったらしい。ずっと見ながら笑っている。
「いいな、こいつら。プレイも熱いなって感じだし、MCも面白ぇし、ステージングも派手で」
「でしょ?」
「夕くんもすげー上手いな。可愛い顔してんのに、千手観音みてーなフレーズ叩きやがって」
彼はニヤリ、と笑みを浮かべる。一人のヘヴィメタルドラマーの顔だ。
「ディスコードのサポートってのは伊達じゃねーな」
「うん。しかもまだ26なんだから、この先怖いよねぇ」
「俺が26の時なんて、出鱈目もいいとこだったからな」
「そう? 今聴いても真面目な音だけど?」
ケルベロスのセカンドアルバム、ダブルダイドがリリースされたのが、ちょうど彼らが26歳の頃だ。
「俺なりには真面目にやってたけど、今聴くとアラしか見えねーわ」
「それだけ、ケルベロスが進み続けてるってことだよね。ベルノも、そのうちそうなるよ」
「ああ、こいつらならやってくれそうだな」
一通りのコントのようなやり取りがひと段落つき、笑顔のまま深呼吸した綺悧が口を開く。
「じゃあ、残すところあと2曲なんですが…」
「えーっ!」
朱雨がオーディエンスに変わって叫んでくれる。きっと、全国のファンたちが同時に叫んでいるはずだ。
「声がちいさーい!」
「えーっ!!」
「って、朱雨くんだけだし」
「気持ちだけは東京ドーム一杯分こめた」
「伝わった」
綺悧は朱雨を軽くいなし、再びカメラに向かう。
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