26-9

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「少なくてごめんなさい。その分全力で行くから…着いてきてくれよ!」  楽器隊がそれぞれ音を出して、同じ気持ちだと表現する。 「では、久し振りにやる曲です。(オボレル)」  暗く光るシンセのメロディ。重苦しいけれど、煌めいている。それはまるで、水の底から見上げる水面のようだ。  一定のリズムを刻む、スネアドラム。そのショットが少しずつ強くなり、最大に達した時に襲いかかる音の津波。  聴く者の神経に切りつける、綺悧の絶叫。  激しく荒れ狂う嵐の海に呑まれていくような心持ちだ。その音に抗うことは出来ない。  朱雨がこちらに伸ばした手には、決して届くことがなく、礼華が華麗にターンする後ろをついていく、柔らかなトレーンも掴めない。  襲い来る波の中、救われることが叶わない絶望を浴びている自分を、冷たく見詰める宵闇は、まるで死神だ。  ただ一人、夕のドラムだけがたった一人でも救おうともがき、暴れ回る。そこに希望がありそうなのに、余りにも遠い。  正に、深い海で溺れて消えていくような、そんな曲。  一筋の救いだけを見つめ、渇望したまま、海底に沈んで行く。そんな光景に目を奪われたまま、アウトロが悲しく消えて行く。  息を切らせた綺悧が、水を飲んでもう一度センターに立つ。 「今日は、このツイキャスライブに来て下さって、本当にありがとうございました。俺たちは絶望と閉塞感、っていう世界を表現していますが、現実世界のこの閉塞感は打ち破りたい」  真剣な面持ちで、彼は静かに語る。 「俺たちに今出来るのは、少しでも皆が好きなライブに、どんな形でも…こんな形でも参戦してもらって、一つでも楽しかったね、って思ってもらうことぐらいです」  そして、にっこりと笑う。 「多分、バカなバンドです。それで世の中が変わるわけじゃないけど、でもやらずにいられなかった。俺たちもライブをやりたいし、皆もライブに来たいと思ってくれてるって思ってるから。だから、今日はあんなふざけた30分間の客入れのオープニングを作りました」  そのオープニングがどれ程リアルに、見ているしおんの気持ちをライブハウスに連れて行ってくれたことか。ずっと見ているファンなら、デッドエンドやガスタンクを聴いただけで、条件反射でテンションが上がっただろう。  その気分を与えてくれたこの企画は面白かったし、ファンのことを心から思っていることが伝わる。 「きっと、近いうちに皆でまた集まって暴れられる機会が来ます。その時は、汗とヘドバンでぐっしゃぐしゃになった皆の顔が見たいです」  メンバーそれぞれに、頷く。宵闇さえも、静かに頷いた。
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