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26-11
誰もいなくなったスタジオの照明が少し暗くなり、アナウンスが入る。
「本日の公演は終了致しました。お忘れ物のございませんよう、お気を付け下さい」
そのまま暫く、一定の間隔でアナウンスが繰り返される。
「リアルだな」
「ね。ライブハウスにいるみたいだった」
フロアで人波に揉まれていたかのように、体温が上がっているのを感じる。帰り道に、その心地よい残り火を感じながら歩くことが、しおんは好きだ。
薄暗いスタジオの中、ローディー達が機材の片付けを始める。
不意に、静かな男の声がアナウンスに割り入った。
「今日はありがとう」
はっとして画面に見入るが、声の主の姿は見えない。
「宵闇くん?」
「かな。こんな声だった気がする」
和馬と顔を見合わせる。その声は続ける。
「act.3では、もっと驚かせる。必ず待っていてくれ。…逃がさない」
その声は、そこで途切れる。
程なくして、ツイキャスは終了の表示に変わった。
「カッコいいなぁ、もう」
笑みがこぼれる。こんなに真面目に逃がさない、などと言えるのは、宵闇しかいない。
「よし、雄貴に企画させよう」
和馬は突然、そう言った。首を傾げて、彼の顔を見上げる。
「何を?」
「V系メタルと対バンしてーじゃん。フロアめちゃくちゃになるぞ。うちの客はモッシュだからな」
「あはは、危ないなぁ。でも面白い!」
その混沌としたライブで、それぞれの客層が広がったら、どれ程楽しいだろう。
「他に良さげなのいるか? お前の方が詳しいだろ」
「そこまでじゃないけど…りゅうの事務所のサンドリオンも凄いよ。あ、DAWNに載ってた」
DAWNが置いてある棚を探り、サンドリオンが掲載されていた号を探し出す。
「これ。ライブは本気のメロコア」
「ああ、こいつらなら聴いた…あ、女の子がいるのか」
しおんは吹き出す。
「それ、男の人だよ? 見て、他のメンバーより大きい」
「ん? …うわ、遠近感狂うな」
ふんわりとしたロリータ服を着込んでいる雪緒は、冷静に見るとメンバー内で飛び抜けて背が高いし、肩幅もある。
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