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 そこへ別の客が二人入店してきたので、颯太はそちらを出迎えに、再びカウンターを離れる。 「さ、どうなんのかな」 「上手く行くと思うけどねぇ、俺は」  微笑んで、彼らを見る。重要なシーンを前にして、少しぎこちない。 「彩人くんの方は」 「うん、もう話したって。自分の父親がヴォーカリストだっていうのはびっくりしたみたい」 「するよな、そりゃ。彩人くんがヴォーカリストになったのは偶然なんだったよな」  しおんは頷いて返す。 「たまたま、ベルノのヴォーカルに空きがあっただけだから。でも、何か縁っていうか…運命っていうと大袈裟かもだけど、引き合うものがあったりするのかな」 「そうかもな」 「でも、すごく喜んだみたいだよ。物心つく前から、ずーっとユウセイさんの歌は聴いてるんだから」  ライブが中止になり、次のライブも開催出来るかどうか不透明な中で不安に陥っていたであろう彩人にとって、それはどんなに明るいニュースに聞こえただろう。 「ママ頑張って、って応援してくれたみたい」 「いい子なんだな」 「俺は直接喋ったことないけど、聖名ちゃんがいい子だって言ってるしね。MC見てても、わかる」 「ああ、真面目でまっすぐな子だ」  裕奈が、背筋をすっと伸ばし、話し始めたようだ。ユウセイは真剣な顔で裕奈をまっすぐ見ている。  裕奈が話すことに、ユウセイが頷きながら相槌を打っている。彼女は一度口をつぐんで、目を伏せ、そして意を決したように、口を開く。  ユウセイがその言葉に前のめりになる。裕奈は頷いて、言葉を続けた。  ガタン、と音を立てて椅子がひっくり返る。勢い良く立ち上がったユウセイに弾かれたのだ。  彼は驚きと喜びが同時に溢れる表情で、裕奈の手を両手で握った。そして、裕奈に矢継ぎ早に何か問いかけている。  裕奈は安堵した様子で笑い、ユウセイに椅子を戻させる。そして、自分のスマホを取り出して、ユウセイに向けた。 「マジかー!!」  ユウセイの大声に、別の席の客も振り返る。ユウセイはまた立ち上がっている。 「彩人くんの話してるみたいだね」  しおんはにこにこしながら、彼らを眺める。 「おん。いい雰囲気っつーか、ユウセイくん舞い上がってんな」 「かなり人によって反応違う件だなーとは思ってたけど、ユウセイさんがこっちのタイプで良かったぁ」  こんなに躊躇いなく、手放しで喜べる人間はそういないだろう。裕奈に窘められて腰を下ろし、何度も画面と裕奈を見比べてあれこれと尋ねている。
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