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27-8
彼らの止まっていた時間が生き生きと動き出したことが、その様子から伺い知れる。きっと、これからとても暖かな時間を紡いで行く。
「…何か、俺も幸せな気分になっちゃった」
「誰かが幸せなの見んのは、いいよな」
「うん。特にね、裕奈ちゃんは昔からずっと自分を抑えてたから…もうそうしなくていいんだなって思うとね」
しおんの目頭が少し熱くなる。
まるで抜け駆けをして周りを蹴落とし、卑怯な手で勝ち組に登り詰めたように言われてしまう、オキニという存在。誰にも知られておらず、直接罵倒されることがなかったしおんだけれど、その息苦しさは痛い程わかっている。
様々な形があっただろうが、裕奈もしおんも、真剣に、ごくシンプルに恋をした結果だった。
それが、こうしてきちんと結ばれるのを目の当たりに出来たことで、救われた気持ちになる。
あれも、やっぱり恋の一つだったのだと。
その気配を察したのか、和馬はしおんの頭を軽く撫でる。彼を見上げて微笑むと、彼も返してくれる。
「俺は、ちゃんとやれてっかな」
「何が?」
「その…お前を幸せにしてやれてっかなって」
照れながら、そう聞いてくれる。
「うん。俺、今めちゃめちゃ幸せだよ」
「なら良かった」
彼はほっとしたように、表情を緩める。
「俺は出来てる?」
「おん。ありがとな」
幸せと一口で言っても、一括りには出来ない。それぞれに、それぞれの幸せがある。何が幸福で、何が不幸かは誰にも決められないけれど、自分がそう感じるのならば、それが正解だ。
指輪の内側にならべて刻んだ、互いのイニシャル。同じように、ずっと隣にいられるように。互いに、互いを幸せにしていけるように。
何もしなければ、それは永遠ではない。互いのことを想ってこそ、続いていくものだ。
それを忘れないようにしよう。
「和馬さん! しおんちゃん!」
いつの間にか電話が終わったらしい。明るい声でユウセイがしおんたちを呼ぶ。振り向くと、二人はこちらに来ていた。
「すげーよ! 俺、カミさんと実の息子ダブルでゲットだわ! ミラクルじゃねーか!?」
彼はとびきりの笑顔でそう報告してくれる。
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