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27-9
これまで黙っていた裕奈を恨むような陰はまったくなく、寧ろ、伝えてくれたことと、彩人を育ててくれたことに対する感謝で溢れんばかりだ。
「ありがとうございました」
裕奈は横でぺこりと頭を下げる。
「おめでとぉ!」
「おめでとう。よし、祝杯だな? ユウセイくん」
「あざーっす!」
彼らはカウンターのスツールに腰掛ける。
「裕奈ちゃん、良かったね。俺もほっとしたよぉ」
「ありがと。聖名にも早く報告しなきゃなぁ」
笑う裕奈は、いつにも増して綺麗に見える。
「神奈ちゃんとナナちゃんは、びっくりするだろうね」
「へへ、そうだね。何て言うかな」
「楽しみだねぇ」
そこへ、颯太が綺麗な青い瓶を携えて現れる。
「祝いだよ。呑もうや」
和馬はそれを受け取って、カウンターに置く。モスカート・ダスティ。そのスパークリングワインの甘さは、今の二人にぴったりだろう。
「いやいや、和馬さん。俺、自分で下ろすっすよ」
「いいんだよ。めでてーんだからよ。その代わり、これから二人で呑みに来いよ」
「ありがとうございます。そうします」
裕奈はにっこり笑う。颯太はシャンパングラスとワインオープナーを手際良く並べ、フロアに引き下がる。
「そんじゃ…」
和馬はワインオープナーをコルクにねじ込み、レバーを下げる。
「ユウセイくん、裕奈ちゃん、おめでとう!」
彼がコルクを引き抜くと、気持ちのいい音がポン、と鳴る。
「おめでとぉー!」
手を叩くと、彼らは顔を見合わせて照れ笑いをする。
和馬はグラスにそれを注ぎ入れ、それぞれの手元に置く。
「乾杯はしおん、お前な」
「うん。えーっと…」
少し考える。どんな祝辞を捧げようか。
「長い道のりだったけど、二人の想いが叶って、俺も嬉しいです。末永くお幸せに。乾杯!」
軽くグラスを打ち合わせ、グラスに口をつける。甘くて優しい味わいが、これからの彼らの人生であれば良いな、と思う。
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