宰相の中将。

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宰相の中将。

 最近宰相の中将の様子がおかしい。  何がおかしいかって。兎に角急によそよそしくなって。  昨日なんか同じ部屋で待機していたのにも関わらず、一言も口を聞かず。  あたしが連絡事項を話しても声に出して返事もしない。首をふるさまも力無い、どこか遠くを見ているようなそんな感じもする。  ついこの間までは姫を紹介しろだのうるさくて言ってきていたのに……。  ああ、あんなやつでもこう素っ気なくされると寂しく思うんだ。あたしも随分と中将のこと気安く感じていたんだな。と。  友の思いもかけない変化に、戸惑いを感じ。  右大臣家でも変化があった。  四の君が身篭ったのだ。  右大臣も奥方もそれはもう大喜びで。  あたしは彼女とは添い寝をしていただけですよなんて言えない雰囲気だった。  どちらかといったら子供っぽい彼女はあたしがするするっと隣に寝ても、それで特に不満を言う様子でも無く。  時々たわいもない話をしながら眠りに就く、そんな感じの生活で。  少し申し訳ない気もしていたけれど、なんとかそんな生活が続くものだと思っていたあたしがバカだった。  まさかここに他の男が来るなんて。  だから男なんて信用できないんだ、と、思う反面、源氏物語でだって宮中の浮名話でだってこんなことは雅だとか語られる話なんだろうなとか。  そんな風にどこか現実逃避っぽくも考えちゃって。  ただ。  このまま女性としての幸せも子供にも恵まれない人生だったかも知れない四の君に好きな男性が現れたのなら。  あたしの方が身を引くべきなのかな。  そうも考えた。  そして数日経ったある日。  内裏に用事があって訪れたあたしはたまたま通りかかった局の女房たちに声をかけられた。 「最近宰相の中将様をお見かけしません。あんなにも頻繁にお声をかけてくださったのに」 「あら、中将様は病を患って寝込んでらっしゃるってはなしですよ」 「それはお気の毒ですね。瑠璃の中将様も気が気でないでしょう? 仲がよろしくていらっしゃったから」 「宰相中将様の瑠璃様を見る目にわたくしたちは微笑ましく思っていましたのに」  そう、かしましく話す彼女たちに囲まれて、あたしはめまいがして。 「ああ、それで最近見かけなかった訳ですね……。教えてくれてありがとう。では見舞いに行くとしますね」  きゃー、と数名声があがり。  訳がわからないままあたしは逃げるようにその場を去ったのだった。
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