Happy Birthday

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Happy Birthday

俺はリノベーションを担当する第一企画部でプランナーをしている。 仕事が充実しすぎていてここ数年は彼女がいない。 今は古民家をカフェにする案件を担当していて、マーケティングやらデザインやらで忙しい。 『瀬野さん、ちょっと良いですか?』 『なに?』 『前に銭湯をリノベーションされてたじゃないですか。その資料ってあります?』 『あるよー。そっか優希って今シェアハウスの担当だっけ。』 『そうなんですよ。ちょっと色々資料見て、マーケティング始めようかなって思っていて。助かります!』 優希は俺の後輩で男、顔負けに仕事をする。 こいつを女だからって下にみる男はうちの部にはいないし、酒豪でノリも良いからクライアントにも気にいられていて、担当した物件も成功している。 嬉しいときには笑えて悲しいときには泣ける、裏表のない性格だからこそみんなに好かれている。 午後からの打ち合わせが終わって会社に戻ってきたら、優希が 『おかえりなさい。これ、ありがとうございました。』 とさっき渡した資料と一緒にコーヒーとHAPPY BIRTHDAYと書かれたアイシングクッキーをくれた。 『え?なんで?』 『今日、お誕生日ですよね?みんなには内緒ですよ。』 とコッソリ言った。 そうだ、10/22は俺の誕生日。 すっかり忘れていた。 優希に言われなかったら、気づかないまま日付が変わって、大分たった頃に思い出していたかもしれない。 彼女がいないと男だしイベント事はどうも忘れがちになる。 優希のこういう優しさに俺はいつも癒されている気がする。 疲れたときはそっと甘いものが出てきたり、 何かに行き詰まっているときはタイミングよく飲みに誘ってくれたり。 気が利くなと感心することが多い。 仕事はやりがいがあるし、友達や趣味も多くて時間が足りない方ではあるけれど ふとしたときに “彼女がいればな…。“ と思うことがあってその時はだいたい優希を思い出す。 近くにいる女を思い出すあたり、 “俺ってつくづく恋愛とかむいていないのかも。” と思ってしまう。 仕事ではこんなにも発想力を使うのに、いざ自分に彼女がいたら…の設定では思い浮かべられる女が1人だけとかプランナーとしてどうなんだ…。って自問自答になる。 『瀬野!ちょっといいか?』 佐藤部長の声で我に戻った。 部長は俺の大学時代の先輩で公私ともに良くしてもらっている。 『はい。なんでしょうか。』 『今日か明日メシ行かない?天野(優希)とやっぱり約束してる?』 『優希ですか?してませんけど。』 『え?彼女だろ?誕生日のお祝いしてあげないの?』 『彼女じゃないですし、それに誕生日って俺なんで(笑)』 『ちげーよ!今日、天野の誕生日だから。』 『まじっすか?』 『てか、お前ら付き合ってないの?あんなにもお前に献身的なのに。こないだだって見舞い、天野だけ行っただろ?』 そうだ、2週間くらい前に俺が熱だしたとき、優希が仕事終わりに来てくれたっけ…。 急にいろんな事を思い出した…。 残業の時は必ず差し入れをくれて自分の仕事も大変なのにマーケティングとか付き合ってくれたり…。 あれってもしかして俺の事が好きってこと…? 頭の中で色々なピースを繋ぎあわせたら急にドキドキしてきた。 俺がいつも優希を思い出すのはいつの間にか彼女を身近に感じ始めていて、気になり出しているからなのか? しばらく恋から遠ざかっていたから気持ちの整理がつかない。 『お前さ、いつも天野の横に座ってるの気づいてた?』 『いつですか?』 『飲み会でも昼飯でも。』 うわっ。無意識だった。 教えられると恥ずかしい限りだ。 自分でも気づかなかったけど 優希に安心感を求めていたのかもしれない。 デスクに戻って、さっきのクッキーを手にする。 “手作りなのかな…。“ 優希は自分が誕生日なのに俺の誕生日を祝ってくれようとしたんだ。 だったら俺も祝ってあげたい…。 くだらない話は思い付くのに 今日、彼女を誘う言葉が見付からない。 このまま今日が終わり明日が来れば また来年まで祝えるチャンスはやってこない。 日頃の感謝と気づいてしまった自分の恋心をこめて 『ハッピーバースデー。』 とただ君に言いたくなった。
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