Yearn for love

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Yearn for love

この春、私は社会人2年目を迎えた。 仕事を始めたら一人暮らしをするって決めていたけれど、両親が過保護すぎてそれは叶わず、実家よりは通勤が便利なので “ここは日本庭園か?” って思うほどの庭がある祖父母の家に2年前から居候をしている。 祖父はよくは知らないけれど有名な庭師みたいで今も健在。 72歳、現役。 祖母は菩薩なのかな?って思うほど優しくてこちらも健在。 65歳、料理教室の先生。 帰りが遅くなりすぎない程度に遊んでいる私は普通の23歳、OL。 祖父母はもともと頭が柔らかい上に孫が1人しかいないこともあってかなり寛大。 実家にいるみたいにとても居心地が良い。 ある意味充実した生活を送っている私だけれど、実は1つだけ悩みがある。 それは祖父に憧れて10年前から弟子入りをしている“律“の存在。 通いとはいえ平日は寝ても覚めても家にいる28歳の若い男との生活は、それなりに男経験があっても意識をしてしまう。 律が祖父の家に出入りし始めた頃、私は13歳で律は18歳だった。 律は私の初恋で中学生にとって18歳はカッコ良くて優しくて、何よりも大人に見えた。 祖父は庭師の仕事を誰かに継いで欲しい気持ちは全くなく今まで弟子をとることもなかったけれど、律が諦めず毎日訪ねてくるもんだから熱意に負けて弟子入りをさせたって言っていた。 10年たった今もまだまだ未熟らしいけど 祖父が少しずつ仕事を任せていけるほどには成長しているらしい。 高校1年生の時、祖父が 『律、どうだ?一花を嫁にする気はないか?』 って言ったのを私は偶然聞いてしまった。 『それはないですよ。』 と律は考える間もなく返事をして私はショックだった。 高1なんてまだ子供で、受けとる言葉はそのままの意味しか持たず裏も表もない。 私の初恋はあっけなく散ってしまった。 この日から22歳の春までは避けていた事もあり律と会うことはなく 再会したのは私が祖父母の家に引っ越してきた時だった。 律は変わらず優しくてカッコ良くて、胸の奥底にしまわれていた気持ちはすぐよみがえってきた。 あの時はただ恋焦がれていたけれど、 それなりに恋愛を経験してきた今の私なら この気持ちが憧れか恋愛かはすぐわかる。 2年たった今も実る可能性がない片想いをしている私からしたら、明日もまた朝から会うのかと思うとため息しかでてこない。 今日もまた、同僚と仕事終わりにご飯に行った。 予定をなるべく入れるようにしているのは律との時間を少しでも少なくするため。 駅について改札を出たときに、律が迎えに来ているのが見えた。 『一花、遅い。待ちくたびれた。』 『別に、終電までには帰ってきてるんだしいいでしょ?』 『女の子なんだから、危ないだろ?』 『大丈夫だし。そもそも迎えに来てとか言ってないから。』 迎えに来てくれていて嬉しかったのに、かわいくないことを言ってしまう。 『うわっ。降ってきた!走るぞ!』 と律は私の手をにぎって急に走りだす。 律にとってみたら他愛ないことかも知れないけど、私は心臓が飛び出しそうだった。 玄関まで送り届けてくれると 『また、明日な。』 と言って帰ろうとするから 『寄っていかないの?』 と思わず引き留めてしまう。 『さっきまで居てて、また戻ってきたらおかしいだろ?』 と笑いながら答える律の笑顔はいつになく優しい。 『早く寝ろよ。じゃあな。』 と言って律は走って帰ってしまった。 『ただいま。』 とリビングにはいると祖母が 『一花、律くんに会った?帰りが遅いからってさっきまで待っててくれたのよ?』 『うん。駅まで来てくれてた。』 『明日ちゃんとお礼言いなさいよ?それと早くお風呂入っちゃって寝なさいね。』 『うん。おばあちゃん、ありがとう。』 律が私のことを好きになってくれたらいいのに。 10年たっても一向に距離が縮まらないこの現実がそれは永遠の夢物語だと言ってくる。 こんなに想っていても結ばれない。 素直になって本当の気持ちを伝えてもなにも変わらないのなら余計な波風を立てたくはない。 ピロン。 スマホがなった。律からのLINEだ。 “ちょっと雨に濡れちゃったから風呂でしっかり温まれよ。” “それとさっきいい忘れたけど。週末、晴れたらドライブでも行くか?” “お前、彼氏もいなくてどうせすることなく家でだらだらしてるだけだろ?(笑)” ムカつく。 彼氏なんてその気になればすぐできるよ。 けど、律が近くにいすぎてどうしても比べてしまうんじゃん。 それでも、律と2人で出掛けられるなんて最初で最後かもしれないと思ったら “デートの誘いなんてごまんとあるけど、律がモテなくて可哀想だから付き合ってあげてもいいよ。” と返事をしていた。 『おばぁーちゃーーーん!おばぁーちゃーーーーん!』 とリビングに戻って祖母を探す。 『なぁに?どうしたの?』 『土曜の朝、私にお弁当を作るの教えて!』 『お出掛けなら、おばあちゃん作ってあげるわよ?』 『だめ!律のだから私が作りたいの。』 『あら、りっくんとお出掛けなのね。あの子、やーっと一花のこと誘えたのね(笑)』 『なに?どうゆうこと?』 『それは、土曜日に本人から聞きなさいよ。一花ちゃん、お弁当何作るのか決まったら材料買っておくから早めに言ってね。』 祖母は嬉しそうにそう言った。 土曜の朝、早起きをして張り切ってお重のお弁当を完成させた。 味は祖母直伝だから間違いない。 ソワソワしながら律の迎えを待つ。 『一花、お待たせ。』 『遅い!』 『何その荷物。』 『お弁当を作ったの。』 『マジで?俺のために?』 『別に、律のためって言うか…。ドライブって言ってたからあればいいかなって思って。』 『マジで?めっちゃ嬉しいんだけど。』 『そ?なら食べてもいいよ。』 と相変わらずかわいくないことを言ってしまう。 今日は少しでも律をドキドキさせたくて 男なら誰でも好きだって聞くオフショルにスキニーパンツをコーディネートした。 運転しながらチラッと律がこっちをみて、急に車を脇道に止める。 『お前、何で肩だしてんだよ。』 『可愛いでしょ?これ評判いいんだよ?』 とあざとさではありません!アピールをする。 律はため息をついていきなり肩にキスマースをつけてきた。 その行動に心臓が壊れるんじゃないかってほどドキドキしておかしくなりそうになる。 『これで、このままじゃ外出られないな。まずは服、買いにいくか。』 『何でこんなことするのよ!』 『ばぁぁか!他の男に見られたくないからだろ!』 『ばぁぁか!他の男じゃなくて律に可愛いって思われたいから着てきたに決まってるでしょ!』 『…。』 『なんか言ってよ…。』 『んなもん…。可愛いにきまってんだろ…。』 『…。』 『なんか言えよ。』 『…言葉が出てこないよ…。』 『じゃあ俺が言うわ…。俺は…』 『待って、やっぱ私が言う。』 と律の言葉を遮る。 この状態でフラれることはないとは思うけどもう7年前みたいに気持ちが伝えられないのは嫌。 だから、正直に 『律が好き。』 と言った。
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