Even if

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彼女は永遠に俺のものにはならない。 来週、俺の親友と結婚をする。 翔平は自慢の友達で、怜衣も俺にとってかけがえのない存在だ。 翔平とは幼稚園からの付き合いで高校卒業後、俺は大学にアイツは美容師専門学校に進学した。 就職をしても変わらず飲みに行ったりはしていて、俺たちの関係は学生の頃と何も変わらない。 怜衣は翔平と同じサロンで働いていて 俺がカットモデルを頼まれた時に初めて会った。 彼女と話をしていると懐かしい気持ちになる。 一目惚れの高鳴りとは違って穏やかに胸が暖かくなる感じ。 こんな感情は初めてで、彼女が俺にとって “特別な存在。“ であることはすぐにわかった。 それと同時に翔平が前から言っていた “職場にいる気になる子。” が彼女だってこともすぐにわかった。 俺達は女の趣味が被ったことは1度もない。 だけど、俺と翔平は幼なじみ4人の中でも1番仲が良くて気が合う。 “ただ好きな女” じゃなく “特別な女” が被ったとしても不思議はない。 だからこそ、考えるに値しない。 俺にとって彼女が特別な存在だとしても 一生に一度の愛する女性だったとしても 俺は翔平を選ぶ。 怜衣の誕生日を幼なじみで祝っても 恒例のBBQをしても 旅行に行っても 俺は彼女をこれ以上好きにはならないと決めていた。 気持ちは決めれるものじゃないのはわかっているけれど 俺はそう決めていた。 2人の結婚が決まって、心底嬉しい。 それは嘘じゃない。 なのになぜか、結婚式を来週に控えてこの気持ちを抱えたまま祝うことに急に罪悪感のようなものが芽生え始めた。 俺の気持ちは永遠に眠らせてしまおうと思っていたし 別に誰に話さないといけないこともないし 俺が怜衣を好きなことも 俺が本心を翔平に隠していることも 罪ではない。 でもなんだか、急に自分の気持ちを大切にしてあげたくなったんだ。 報われたいわけじゃない。 受け入れて欲しいわけじゃない。 壊したいわけじゃない。 むしろ壊したくない。 俺は最初で最後、怜衣を飲みに誘った。 結婚前に 翔平の友達としてではなく 1人の男として 怜衣と2人きりの時間を共有して きれいさっぱりしようと思ったんだ。 キャンドルの明かりだけのカウンターに座って、隣をみると怜衣がいる。 『雰囲気いいね。』 と嬉しそうにしている。 『今度翔平くんも誘おうね。』 って言うあたり、俺の気持ちは伝わってはいない。 今この瞬間は 怜衣は俺のものでいて欲しい。 “俺たちの事を誰も知らないところへ2人だけで行ってしまいたい。“ そんなことが頭をよぎる。 怜衣は翔平じゃなく俺を選べばいい。 そんなことを望んでいるけれど 本当は望んではいない。 本心ではあるけれど本心じゃない。 矛盾した気持ちを紛らわすようにタバコに火をつけた。 俺たちの会話は翔平のことばかり。 怜衣の事が知りたいはずなのに何も言葉が出てこない。 スマホの電源も切ってしまって 翔平のことも何もかも忘れてしまって ただ、怜衣といたい。と思っているけれど 翔平が今何をしているのか 怜衣が終電に間に合うのかが気になって 俺はスマホばかり見ている。 『本当に、翔平くんの事が好きなんだね。』 と怜衣に言われて、ハッとした。 “とんだ茶番劇だな。“ こんなことをしなくても俺は初めからきっとわかっていた。 結局俺は、 翔平の友達で 怜衣は翔平の彼女でしかない。 俺が好きなのは翔平で だから 翔平が好きな怜衣の事が好きなんだ。 俺は、最後にまたタバコに火をつけて 怜衣に 『結婚おめでとう。』 と言った。 店を出る頃には 俺はきれいさっぱりしている。
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