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Fall in Love -Rinko-
私は大学卒業後、某アパレルブランドに就職をした。
原宿にある本店に配属されFAとして毎日たくさんのお客様を接客し忙しくしていた傍ら、
雑誌のスナップ撮影や自社のオンラインモデルをさせていただく機会にも恵まれ
気がつけば3年、25歳になっていた。
ある日、ショップに来たおしゃれな男性に
『新しく表参道でセレクトショップをオープンする予定で、あなたをヘッドハンティングしに来ました。』
と言われ
初めは興味が全くなかったけれど、話を何回かして実際にショップへ伺ったりしているうちに
“ここで働きたい!”
と思うようになって転職をした。
それが私と大樹さんの出会いだった。
変わったセレクトショップではあるけれど
オープン準備から携われて1から何かを作り上げていくことは前職よりはるかに刺激的で
何よりも、大樹さんの作り上げる空間やショップのコンセプトは私の想像を越えているし、セレクトされたものは全ておしゃれでしかなかった。
そんな楽しい毎日を過ごして待ちに待ったオープンの日、1番に来てくれたのは
大樹さんのお友達でグラフィックデザイナーをしている奏さんだった。
目と目があった瞬間、おおげさだけれど世界が変わり始めた気がした。
あの時はわからなかったけれど今ならこの気持ちを恋だと言える。
笑顔が見れただけで今日も1日頑張ろうって思う。
毎朝、大樹さんと話をするために来ているのはわかっているけれど
欠かさず
『おはよう、凛子ちゃん。』
って言ってくれるだけで
“それだけで良い。“
と思えるぐらい幸せな気持ちになる。
恋に落ちた瞬間、この人は手の届かない人だと気づいたし、違う場所に立っていて思い通りにならないこともわかっているけれど
一瞬、目が合って笑ってくれたら
“それでも良い。”
と思えるぐらい幸せな気持ちになる。
25歳の小娘が、あんな素敵な人と釣り合うわけがない。
現実は厳しい、そんなこと十分わかってはいるけれど
奏さんの笑顔の先にいるのが自分でありたいと願ってしまう。
“それだけで良い。それでも良い。”
と思っていた気持ちは日に日に大きくなって私をどんどん貪欲にさせていく。
『凛子ちゃんの作ったプリンが好き。』
と言われれば、毎日作りたくなる。
『ロコモコが食べたい。』
と言われれば、今すぐ作ってあげたくなる。
だけどどのくらいの頻度で、どのタイミングでしたらいいのかレシピみたいにネットには載ってはいない。
恋愛大明神と噂の大樹さんに相談したいけれど、近い相手過ぎて迷惑かもしれないと思ったら安易には話せない。
ファッションみたいに自分の好きなようにはできない。
先が見えなさすぎて途方にくれてしまう。
お客様が来ていない時はどうしても考え込んでしまう。
そんな私を心配してくれたのか急に大樹さんが
『凛、大丈夫か?』
と声をかけてきてくれた。
『全然、大丈夫です。ボディの服変えようかな?って考えていたらボーッとしちゃってました。』
『そっか、ならいいんだけど。
じゃあさ、ちょっとお願いがあって。
明日プリンって作ってこられる?』
『プリンですか?』
『奏がまた食べたいって言ってたから。あいつ最近、仕事忙しいみたいで昼飯も中々食べに出れないって言ってたし…。』
『そうなんですね。全然大丈夫です!作ってきます。』
奏さん、仕事大変なんだ…。
毎朝会っているのに全然わからなかった。
もしかして大樹さん、大明神だから私の気持ちに気づいてパスを出してくれたのかな?
お昼ごはんも食べれていないって言っていたし、ロコモコを作って渡すのもきっと明日なんだ!
もし、迷惑がられたとしてもバレてしまっているのであれば大明神に相談しよう。
もし、喜んで受け取ってくれたとしてもこの先の事を大明神に相談しよう。
土日のコーヒースタンドはスタッフのためには開かれないから
明日、時間があるか聞いてみよう。
きっと大樹さんなら
『ゆっくり聞いてやる。』
って言ってくれると思う。
今日は早く帰ってプリンを作ってロコモコの練習をしなきゃ。
そして、
『良かったら食べてください。』
ってスマートに言えるようにシュミレーションもしなきゃ。
渡せなければこのパスも無駄になる。
私の気持ちも行き場がますますなくなる。
最初で最後のチャンスかもしれない。
『良かったら食べてください。』
後100回は口に出して練習しなきゃ。
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