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Fall in Love -Epilogue-
初めて会った時、俺の世界は変わり始めた。
今ならこの気持ちを恋だと言える。
仕事が思い通りに進まない日は決まって彼女の笑顔を思い出す。
俺にとって彼女の笑顔は癒しで活力で俺の全てをかけて守っていきたいものだ。
彼女の事ならどんな些細なことでも知りたい。
俺と彼女は年齢もフィールドも違うけれど、彼女が大事にしているものや信じているものは全て包み込んであげたい。
25歳の彼女から見たら30を越えてる俺はただのオジサンでしかないし
あんな素敵な子と釣り合うわけないけれど
彼女を笑顔にするのは自分でありたいと思ってしまう。
俺はグラフィックデザイナーをしている。
何かを描き出す仕事をしているけれど
未だ彼女との未来は描けないでいる。
クライアントのニーズに答える事が必須だけれど、彼女のニーズは俺にはわからない。
25歳の女の子が今何を考えていてどうすれば手にはいるのか、俺の使っているアプリには載っていない。
デザインを書くみたいにインスピレーションだけでは上手くいかない。
イケメンデザイナーとして雑誌に取り上げられてもスナップ写真を載せてもらえても
中身は全くイケていない。
凛子ちゃんが俺のためにロコモコのお弁当を作ってくれた。
抱き締めたいくらい嬉しくて自分を押さえるのに精一杯だった。
気のきいた一言も言えなかった。
これはもう大樹大明神に頼るしかない。
30も越えていい年したおっさんが友達に恋愛相談。しかも相手は年下の女の子。
でも、大樹は絶対気がついている。
俺が90%凛子ちゃん目当てで毎朝、店に来ていることを。
“明日の土曜、店やってる?相談したいことあって。”
笑われるのを覚悟でLINEを送る。
意外にも大樹からは
“時間ならたっぷりあるから、気がすむまで聞いてやる。“
と返ってきた。
大樹のコーヒースタンドはセレクトショップと同じフロアで、一見お断りの土日不定で営業している。
今日は俺の貸しきりだ。
『大樹…。実は俺…。』
『凛子が好きなんだろ?』
『やっぱ、気づいてたか…。』
『で?どうすんの?てか、どうしたいの?』
『彼女と付き合いたくて…。じゃないな、結婚したくて…。』
『マジか!飛ばすなー。』
『あの子以上の子はもう、見つからないと思うから…。』
『なら、話は早いな。今すぐ凛子を呼び出してメシでも行ってこい。お前らの場合ダラダラ時間かけてもムダだ。それと雰囲気のいい店じゃなくてお前の馴染みの店に行けよ?そんで、帰り道告れ。お前絶対車で行けよ?酒は飲むな。』
『今すぐって彼女も予定とかあるでしょ。普通に。』
『あったら明日にすればいい。俺が言ってんのは早くしろってこと。お前、オッサンだかんな。1分1秒年取ってんだよ。早くしねぇと加齢臭してきて、それこそ告る前に避けられんぞ。』
『加齢臭って…。お前も同いだろーが。』
『俺が言ってんのはスピード勝負って事。お前がつべこべ言えば言うほど凛子が遠い存在になるって思え。』
『てゆーか…。』
『まだ、なんかあんのかよ。やる気あんのか?』
『いや、違うくて。俺、連絡先知らない…。』
『お前…。まじでお前…。手がかかる。好きな女目の前に連絡先聞かないでよく生きてられんな。考えらんねー。』
『聞くタイミングがなくて…。』
『タイミングなんてみんな無いんだよ。ないから自分で作ってんの!お前クリエイターだろ?作んのは得意じゃねーのかよ。』
『大明神…。ちょっと俺に厳しくない?』
『お前がそのビジュアルと性格を宝の持ち腐れにしてるからだろ?しゃーないからこれ、連絡先。今すぐLINEしろ。』
そう言われて凛子ちゃんにLINEをする。
『奏、お前。ダラダラ長文送ってないだろうな?』
『わかってるよ。』
『何て送ったんだよ。』
『…。』
『お前、どうせ…。』
『あ、返事来た!』
『なんだって?』
『今から会ってくれるって。1時間後に表参道の駅で。』
『まじか。やったな。後は上手くやれよ?とりあえず、家帰って着替えて車で行けよ?』
『サンキュ。』
そう言って俺はショップを出た。
え?彼女に送ったLINE?
“今から時間ある?2人だけで会いたい。”
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