If you can be honest

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If you can be honest

帰り道カフェに立ち寄ったのは、まっすぐ家に帰るのが嫌だったから。 ひとり暮らしの家でトラブルなんてそうそう起こらないし、仕事や友達関係も順調。 なのに家に帰りたくないって思うほど胸がざわついているのは、きっと駅で楓を見かけたせいだと思う。 私の知らない女の人と一緒にいた、私の知らない楓。 私がこのまま、まっすぐ家に帰れば もしかするとマンションのエントランスで会うかもしれない。 28年間一緒にいて、知らないことはなにもないと思っていた男の知らない顔を間近で見るのは嫌だった。 カウンターで雑誌を見ながら注文したカフェラテを飲む。 “サードプレイス男子特集“ いつもなら興味がなく飛ばしてしまいそうな 特集なのに、なぜか気になって読んでしまった。 サードプレイスとは 【家と職場の間の第三の場所】を指す。 その要素を兼ね備えた男性こそが “サードプレイス男子“ サードプレイス男子とは ①一緒にいて居心地がいい ②全てを受け入れてくれる器の大きさ ③日常のコミュニケーションがはずむ ④お互いの違いを認めあえる ⑤長年連れ添ってきたような安心感 ⑥超イケメンではないが飽きないルックス ⑦真面目すぎず遊び心や適度な自由さもある ⑧心の大きな支えとなり、生きていく上で大切な存在になる だそう。 楓と私は実家が隣どうしの幼なじみ。 2人ともエスカレーターで幼稚園から大学まで一緒だった。 就職を機に一人暮らしをするマンションまで同じだったのは 職場から近いっていう立地条件が表向きの理由だったけれど 本当はひとり暮らしを心配する私の両親を気遣って 楓が私にこっそり提案してくれた事だった。 通学から通勤っていう言葉に変わっただけで、かれこれ20年以上朝は一緒、下手したら帰りも一緒。 この生活にお互いが何の違和感も持っていない。 だから、さっきのサードプレイス男子は 私にとって楓そのもので間違いない。 “彼らとお付き合いすれば、いいことだらけとの噂…。優しくて癒されるのはもちろん、幸せになること間違いなし。“ そんな事は私が一番わかっている。 いつからなんだろう。 楓に特別な感情を抱き始めたのは…。 兄妹を好きって言ってるような気がして、 世界が狭くなるような気がして 気持ちを認めず蓋をしてきた。 楓に彼女がいるときは淋しさを埋めるように私も誰かと付き合っていた。 でも本当は楓に抱きしめて欲しくて、素直になりたくて、 楓の全てになりたかった。 不安な時はいつもそばにいてくれて、楓の前では強がりは通用しないし 離れてると寂しくて、側にいると苦しかった。 自分の気持ちに気づけば気づくほど戸惑うばかりで、急いでまた蓋をした。 そんな事を何年も繰り返していると、いつの間にかそれが得意になる。 なにも起こらなければ、気持ちが漏れることはない。 私さえなにも言わなければ、関係が壊れることもない。 胸のざわめきはこうして時間をかけて収めてしまえば、明日は何事もなく会える。 雑誌から目を離して時計を見た。 まだ30分しかたっていない。 『すみません。カフェラテをもう1杯。』 あと30分は家に帰りたくない。 そう思って2杯目をオーダーしまた雑誌に目をやった。 『すみません。僕にもカフェラテを。』 と声が聞こえたときには隣に楓が座っていた。 『なんで?ここで何してるの?』 『ん?店の前通ったら遥が見えたから。これ飲んだら一緒に帰ろう。』 『…。』 『今日は帰り駅で会わなかったな。しばらく待ってたんだけど、まさかここにいるとは思ってなかった。』 『さっき駅で楓見たよ。』 『まじで?声かけろよ!』 『女の人と一緒にいたから…。』 『女…?女…。あー、道聞かれたやつだ!』 『道?』 『改札前で迷ってる人がいて。ほらあの駅ややこしいだろ?出口がわからなかったみたいで。それで声かけずに帰ったの?ひどくない?』 『ごめん…。』 “本当はね、てっきり彼女ができたのかと思ったからそれを知りたくなかったの…。“ 何て素直には言えない。 カフェを出て、家までの道を2人で歩いているとそっと楓が手を繋いできた。 『なんで、手繋ぐの?』 『ん?また、先に帰られたら嫌だから。』 『…。』 『こうやって繋いでたら、ずっと俺のものでしょ?』 『…。』 『あと何年待てば、手じゃなくて抱き締められるんだろう。』 『え?』 『あと何年待てば、キスさせてくれる?』 『…。』 『その分だと、早くて20年ってとこかな(笑)』 待って…。思考回路がついていかない。 今の話って、楓が私を好きってこと? 『ねぇ…。今のって。』 『ん?俺は遥が好きだって話。好きじゃなきゃ幼なじみと同じマンションなんか住まないって。』 『でも楓、今まで彼女とかいたじゃん。』 『そりゃ、男だし…。それに関係を壊してまで手にいれるべきか悩んでたし…。』 “それって私と同じ…。” 『でも、28歳にもなると忍耐力もつくって話。』 『なにそれ(笑)』 『だから、今ここが折り返し地点でも良いよってこと。』 その言葉を聞いて、涙が出そうになったのを堪えるために空を見上げた。 都内なのに今日は星が多く見える。 28年分の素直な気持ちを今伝えたくなった。 『楓はやっぱり私のサードプレイス男子だね。』 『なにそれ。』 『第三の場所ってこと!』 と言って楓のほっぺたにキスをした。 “彼らとお付き合いすれば、いいことだらけとの噂…。優しくて癒されるのはもちろん、幸せになること間違いなし。“
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