146人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
Possible
ふとした瞬間に思い出す。
“あの日、俺が彼女に声をかけれていたら…。”
俺と彼女は大手広告代理店に勤めている。
同期入社で俺は営業部、彼女は制作部。
主にCMを作っていて同じチームで仕事をしている。
クリエイティブディレクターの東山さんは42歳で独身。チャラいけどかなりの切れ者で男なら1度は誰でも憧れると思う。
CMプランナーの高津さんは35歳。男前な上に完璧主義者で仕事は冷徹なまでに完璧。ストイックで超ドS。
自分が認めた人間としか話をしない。
コピーライターの柚木(彼女)は今年30歳。
学生時代から付き合ってた彼氏(俺の親友)と2年前に別れて以来男はいない。
仕事が出来て上司にも後輩にも信頼されているけど恋愛は常に悩んだり迷ったりしている。
営業の俺(阿部)。今年30歳。自分で言うのもなんだけど営業のエースと言われている。
彼女とは3か月前に別れて今はいないけど、基本的には女に困ったことはない。
誰にも言ったことはないけど柚木に10年片想いしている。
俺と柚木の出会いは大学2回の時に同じ講義を取っていたのがきっかけ。
今でも覚えている。
窓側に座っていた彼女の横顔が綺麗でしばらく見とれてしまった。
風でなびく髪の毛を手で押さえながら前に座っている女友達と話をしていた。
偶然、その女子が俺と同じバイト先でその繋がりから仲良くなった。
当時俺には彼女がいたけど、気持ちは完全に柚木に持っていかれていた。
あの出会いから10年。
告れば彼氏になれるチャンスは多々あった。
けど俺は今も友達ポジションで収まっている。
理由はタイミングだったり、彼女が俺の親友と付き合っていたりと挙げ出せばキリがないけど、
本当のところは俺の勇気のなさが原因だ。
今日は新しいクライアントのミーティング。
企画内容は腕時計のCMでクリスマスシーズン前にリリースされる。
営業をかけて、俺がとってきた新規の取引先で当たるとデカい。
『阿部くん。ここ、私がずっとやりたかったクライアント!!』
と柚木がテンション高めに言ってくる。
そんな事は知っている。
そつなく仕事をこなしたかのように見せているけど、柚木を喜ばしたくて、がむしゃらに頑張って粘って粘ってとってきた仕事だ。
俺は友達としてだけではなく仕事仲間としても彼女の良き理解者としても信頼度は厚い。
正直、この誰にも真似できないポジションに満足はしている。
だけど心の底では
毎日“この関係は違う”と思いながら
この10年を過ごしてきた。
今までの関係を変えて
これからも一緒にいるのは可能なんだろうか。
柚木が俺の事をどう思っているのか気持ちを聞きたい。
夜も休日も彼女に会いたくなる。
今日はまだ気持ちがすれ違っていても明日は繋がりたい。
柚木が今、仕事に夢中なのはわかっている。
高津さんの信頼を勝ち得て、東山さんに期待されていて、作るコピーはいつも反響がある。
今、また柚木に恋愛ごとを持ち込んだら彼女はまた迷ったり悩んだりするのはわかっている。
悩ませたいわけじゃない。
迷わせたいわけじゃないけど
俺の事を考えてくれる時間が彼女の中で増えるのは嬉しい。
今までの関係なんてもういらない。
これからの未来は可能性にみち溢れている。
新しい扉を開けよう。
ごまかしてきた気持ちを
今はまだすれ違っていたとしても
少しの痛みぐらいじゃ俺の気持ちはなにも変わらない。
素直になって勇気を出そう。
今までは待つばかりだったけど
今は君のもとへ走っていきたい。
今すぐ柚木を自分のものにしたい。
あの日にはもう戻れないから
今、彼女に声をかけてみよう。
『今年のクリスマスは2人だけで過ごさないか?』
最初のコメントを投稿しよう!