First Love

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First Love

俺には特定の彼女なんて必要なかった。 プライベートはわりと充実していて Instagramはフォロワーが1500人を越えている。 車を4WDに乗り換えたのは 休日に仲間や先輩とサーフィンをしたり買い物に行ったり野球をしたりサウナへ行ったりしてワイワイ楽しく過ごしたかったから。 周りは彼女もちが多いし、職場の同僚も既婚者が多いけど 俺が憧れている人達は独身を謳歌していたし 俺自身も不特定多数とまでは言わないけれど予定さえあえば女なんて別に誰でも良いと思っていた。 澪(ミオ)に出会うまでは…。 俺は3か月前から料理教室に通っている。 周りは自炊する人が多くて、それに触発された新たなる趣味 と言いたいところだけれど実際はそんなカッコいいものじゃない。 通い始めたきっかけの、きっかけは “彼女にサプライズで誕生日ケーキを作りたい。” っていう友達に付き合わされて体験教室に参加したからだ。 お菓子に興味がない俺は料理コースを選んで初めて和食作りに挑戦した。 同い年ぐらいに見える担当の先生は どっかで会ったことがあるような気がするんだけど思い出せない。 誰かと似ているのか、ただただ親近感がわきやすいキャラなのか…。 全くわからないけど男だからって媚びることなくサバサバしていたし、話も合う。 何よりも分かりやすく丁寧に教えてくれたおかげで、料理をすることそのものが楽しいと思えた。 このまま入会しようかどうか悩んでいた時、偶然他の先生の話しを聞いてしまった。 『聞いた澪さん、彼氏と別れたらしいよ。』 『聞いた聞いた!バーでお酒ぶっかけたんでしょ?』 『そうそう!やっぱ澪さん、カッコいいわぁ。憧れる。』 『確かに!でもさ、ビジュアルよし、性格よし、オシャレで家事全般も申し分ないくらいできるのに、なんで男を見る目だけはあんなにないんだろうね。』 『それはこの世の七不思議なんじゃない?』 この会話を聞いて思い出した。 あの先生、やっぱり見たことがあった。 俺がいきつけのバーで1人飲んでいた時に 『最低!』 と言って男の顔に酒をかけて店を出ていこうとした女がいて 俺はなんとなくすれ違いざまに彼女の顔を見てしまった。 目には涙が溜まっていて、俺はすぐ泣く女はめんどくさくて嫌いだけど なんとなく彼女の涙は嫌じゃなかった。 だから覚えていたんだ。 そうだ、彼女だ! さっきまで入会するかどうか悩んでいたのに、俺はすぐ申込書にサインをした。 もちろん担当には彼女を指名した。 ダサいけど、これが料理教室に通い始めた俺のきっかけだ。 初めはただの好奇心だった。 男に酒をかける強気な性格も 泣いた姿に嫌悪感を抱かなかったのも 男に媚びない姿も あのサバサバした口調も 話が合うところも 俺の興味をそそる。 ただそれだけだった。 だけど3ヶ月たって今も真面目に通っているのは、もちろん料理の楽しさがわかったこともあるけれど 澪といると楽しすぎることに気がついたからだ。 『澪。』 『呼び捨てにしないで。』 『俺と付き合わない?』 『私、チャラい男とは付き合うつもりないんで。』 『じゃあさ、キッチン用品買いたいから買い物付き合って?』 『買い物だけでいいなら…。』 『まじで?そのあとごはんは?ダメ?』 『チャラ…。やっぱり嫌です。』 この会話を週2回、俺らは繰り返している。 俺には特定の彼女は必要ないと思っていた。 ぶっちゃけ、それは今も変わっていない。 澪以外の女はいらない。 もし澪に出会わなかったとして 別の誰かに、こんな気持ちにさせられるとは思えない。 欲しいものが手の届くところにあって、追わずにいられるわけがない。 今日も教室が終わってから、ルーティーンのように 『俺と付き合わない?』 と澪に言った。 『もう、何回言われてもチャラい男とは付き合いません。』 『チャラい気持ちはない。』 『信用できません。』 『澪、俺は絶対にお前だけしか見ない。』 『男はみんなそう言います。私、男見る目ないんで…。』 澪に全然気持ちが伝わらないのは、俺が今まで女を軽く見てきたからだ。 自業自得だけど諦めきれず最後にもう一度だけ澪に気持ちをぶつけた。 『俺の一生をかけてお前を幸せにする。 澪には“もう男を見る目がない。“とは言わせない。だから、俺と結婚してください。この気持ちが本物だったと絶対思わせるから。 頼むから“うん。”って言って。』 と気がついたらダサいプロポーズをしていた。 “もう、終わりだ…。” とそう思って帰ろうとしたら 『とりあえず…買い物は付き合います。』 と澪が笑って言った。 嬉しすぎて抱き締めてしまった俺に澪が小さい声で 『ありがとう。』 と言ったので 『やべぇ。俺、今この世で1番幸せかもしれない。』 とまたダサい一言をいってしまった。
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