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Time -another story -
『俺たち、別れよう。』
そう言ったのを今でも後悔している。
これ以上何を失えば、もう一度君に会えるんだろう。
季節が何度変わってもあの時間は俺の手には戻ってきていない。
ケンカはいつも俺が許していたような気がする。
だけどわがままだと思ったことは1度もない。
それどころか、何事にも一生懸命で真剣に向き合う姿を愛しいと思っていた。
ドタキャンされてもマメに連絡が来なくても俺が紗央里を1番わかっていると思っていた。
信じていた。
なんであの日俺は
“別れよう。”
って言ったのか未だに思い出せないでいる。
占い師をしている彼女に
『俺たちは運命なのか?』
って聞いたことがあったけど、紗央里は自分の事は占わないって言っていた。
俺との事は
『良くも悪くもいつでもワクワクしていたい。』
と言った。
俺は嬉しいような淋しいような複雑な気持ちだった。
これが別れを切り出した引き金になったのかな…。
いや、引き金なんてものは存在しない。
俺はきっと紗央里を好きすぎてどうしようもなかったんだ。
かなり変な思考かもしれないけれど
俺は好きすぎて逃げ出したくなったのかもしれない。
だけど、今でも探してしまう。
駅で道であのカフェで紗央里の姿を。
こんなところにいるはずはないってわかっている街でさえも。
だけど悲しいもので、俺が紗央里に会えるのはネットや雑誌の星占いやエッセイに載っている顔写真だけだった。
願いがもしも叶うならもう一度会いたい。
許されるならもう一度抱きしめたい。
離れて痛いほど、彼女の代わりはいないことに気づかされた。
淋しさ紛らすだけなら、正直どんな女でもいいはずなのに
誰とも付き合うことができない。
どの季節も紗央里との思い出があって、それを更新することができない。
欲しいものなんて何もない。
君のほかに大切なものもない。
今も昔と変わらずそう思っている。
もし、彼女に会えることがあったのなら
俺は笑って会いたい。
彼女が、紗央里が好きだといってくれていた笑顔をもう一度紗央里に見せたい。
あのカフェでも道端でも駅のホームでも信号の向こう側でもどこでもいいから
俺は笑って紗央里に会いたい。
『もう一度会いたい。』
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