Two as one -man-

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Two as one -man-

香帆のそばにいると、退屈なプライベートに光がさして俺は導かれるように2人が一緒にいる未来を描いてしまう。 『ねぇ、何でだめなの?』 『何度も言わせるなよ。ガキと付き合う気はないの。』 『私、子供じゃないよ。』 『まだ、学生だろ?ガキと一緒。俺がロリコンって言われるわ。』 こんな風に言ってしまうのは フラれるのが怖いから。 俺はいつからこんなにチキンになったんだろう。 狙った女は必ず落としてきたのに。 彼女のことを知りたいけれど 変なプライドが邪魔をして聞けない。 頭をフル回転させて考えても良い言葉が見つからない。 俺が知っている香帆のことと言えば ①田中香帆・22歳・女・フリー? ②青山学院大学4回生・3/25卒業予定 ③亜里沙ちゃんっていう親友がいる。 ぐらいだった。 『はい、どうぞ。』 と俺がいつもと同じように窓際のデスクで仕事をしていると 香帆がブラックコーヒーとブラウニーを持ってきてくれた。 彼女は俺が頼まなくてもいつも良いタイミングでコーヒーを持ってきてくれる。 『なんで、ブラウニーも?』 と聞くと香帆は 『疲れてそうだったから。それにチョコは脳が若返るんだって。 良かったね、お・じ・さん♡』 と俺をからかうように言った。 “コイツ!俺はまだ29だっての!” と心の中で思いながらも、さすがだなと感心してしまう。 彼女は俺だけじゃなくて このコワーキングスペースで仕事をしている人みんなに かなりの気遣いができる。 今日の印象や会話の内容から 出すコーヒーを変えたり、甘いものを出したり。 人の事をよく見ていて 人を好きだからこそできることだと思うから 本当に感心する。 彼女の優しい気持ちに触れたくて 持ってきてくれたコーヒーを飲もうとカップを持ち上げると 下敷きになっていたのかメモが床に落ちた。 拾い上げて中を見てみると “仕事、頑張ってね。香帆” と書いてある。 俺は香帆のこういうところがたまらなく好きなんだ。 1月に入ってからは彼女を見なくなった。 卒業を目前にバイトを辞めたのか気が気じゃなかったけれど、同僚の子にも誰にも聞けない。 静かな空間で仕事が捗ると言われたらそうかもしれないけれど、会えない淋しさに押し潰されそうになる。 もちろん、街中を歩いていて偶然会うことはないし、連絡先も知らない。 気づけば10分に1回はため息をついていた。 他のカフェスタッフの子が 『コーヒーお持ちしましょうか?』 って聞いてくれても、コーヒーを見ると香帆を思い出してしまって飲めなくなってしまった。 俺は重症患者すぎて、俺自身につける薬がもうない。 香帆に会えないのならここにとどまる理由もない。 そろそろ仕事場所を変えようかとすら思い始めていた。 とりあえず新しいところが見つかるまではと、いつも通りオフィスに来ると カウンターで畑中が誰かと話しているのが見えた。 うしろ姿でハッキリとわかる。 “香帆だ。” 悪い夢から覚めたように俺の視界が一気に明るくなる。 香帆はいつもと変わらない様子で俺に 『1ヶ月も会えなくて淋しかった?』 と聞いてきたけれど “死ぬほど淋しかった。“ と素直には言えない。 だけど今度彼女と離ればなれになったら 一生俺のものにならない事だけは もう十分すぎるほどわかっているので 『今日、飯でもいくか?卒論終わったんだろ?お疲れ会やってやる。』 と俺からデートと言えるかどうかわからないけれど初めて誘ってみた。 もしうまくいかなければ、この先は彼女の幸せだけを祈ればいい。 本当は卒業式の日に告白するつもりだった。 『今すぐ、正門に来い。』 って言ってスーツを着て車で迎えに行って…。 とか色々想像をしていた。 香帆が大学を卒業して学生じゃなくなる日をずっと待ち望んでいた。 そしたら、堂々と香帆を抱き締めて 『好きだよ。』 と言える。 そんなキザなことをチキンなりにずっと考えていたんだ。 だけど今日そのプランは白紙になる。 だって俺は絶対に我慢できずに 彼女を抱き締めて 『俺は香帆が好きだ。』 と言ってしまう自信があるから。
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