Looking for you

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『僕と付き合ってもらえませんか?』 『1年だけなら。』 ダイビングスクールで出会った人と 期間限定の恋はこうやって始まった。 9/16 27歳の誕生日を迎えた今日 私は顔も名前も覚えていない人と結婚をする。 いわゆる政略結婚だけどそれで良い。 今の暮らしを捨てられないし、もともと結婚生活に期待なんて持っていない。 25歳の誕生日にフィアンセと名乗る人と1度だけ会ったけれど 次の日には顔も名前も忘れた。 私にとって結婚はただの契約にすぎなくて 心を揺さぶられる恋愛とは違う。 求めるレベルにさえ達してくれていれば 相手なんて誰でもいい。 私は顔も名前も忘れた男とこの先長い時間を一緒に過ごすことになる。 男はきっと家庭を省みず、外に女を作るんだろう。 結婚は生活していくための契約なのだからそれでいい。 独身生活最後の1年を一緒に過ごすパートナーに、好きな人ではなく告白してくれた男を選んだのは 恋愛にのめり込むことなく気軽で楽しい時間にしたかったことと 別れるときに往生際が悪くならないようにしたかったから。 1年間が想像以上に楽しかったのは 最後だとわかっているから思いっきり楽しめたのか、相手に心地よさを感じていたから楽しかったのか 30分後に結婚式を控えている私にとっては 今さら必要のない答え探しだった。 準備を終えた私に1通の手紙が渡された。 差出人は新郎だった。 “最愛の由梨へ 僕は今日、世界で1番幸せな男になる。 ずっとずっとこの日を夢見ていた。 必ず幸せにすると約束します。 10月はフランスに行こう。 君が気に入ったあのワインをまたたくさん買おう。 11月は少し早いかもしれないけれどまた着物を着て京都で紅葉を見よう。 12月はクリスマスマーケットを楽しみにまたドイツに行こうか。 1月は高千穂の温泉でゆっくりしよう。あの露天風呂お気に入りになったでしょ? 2月はガトーショコラが食べたいな。次はハートの形でリクエストしても良いかな…。” 心がざわついて全部読めない。 『あのっ!この手紙…。この手紙を渡した人って今どこにいますか?』 『まだお時間まで30分ほどありますのでお部屋でて左の突き当たり新郎控え室にいらっしゃいますよ。』 それを聞いた私はウェディングドレスで廊下を走り ノックをすることなく勢いよく扉を開けた。 窓の外を見ていた男がゆっくりと振り返り 『最高に綺麗だ。』 と言って笑う。 逆光で顔がはっきりとは見えない。 男は私の手元を見て 『手紙、読んでくれたんだ。でも8月と9月の事を書き忘れちゃったから今伝えても良い?』 と聞いてきた。 『何?』 って聞くと 『8月は告白をさせて?毎年ちゃんと俺の気持ちが何一つ変わらないことを伝えたい。 9月、由梨の誕生日は必ず2人でお祝いしよう。1番におめでとうって言いたい。』 『…なんで?何でここに享がいるの?』 『俺が新郎だから。』 『どういうこと?』 『2年前から俺が婚約者だってこと。』 『そんなの変じゃん。だって私の婚約者はパパの会社の取引先の人…。』 『それが俺だって。由梨、25歳の誕生日に会ったとき全然こっちを見なかったから覚えてなかったんでしょ?』 『…。ごめんなさい。』 『俺は少しでも由梨を知りたくてダイビングスクールを同じところに変えたんだ。』 『じゃあ初めから私って知ってて近づいてきたんだ。』 『黙っててごめん。でも由梨は結婚に良い印象持ってなさそうだったから言えなかったんだ。もし1年付き合って由梨が楽しくなさそうなら婚約を解消しても良いと思っていたし。』 『でも、結婚をすることにしたってことは私が楽しそうにしてたと思ったから?』 『違う。俺が楽しかったから側にいて欲しいと思った。由梨の気持ちより自分の気持ちを優先したんだ。ごめん。』 私は享に出会うまで結婚なんて単なる生活だと思っていた。 相手なんて求めるレベルに達していれば別に誰でも良いと思っていた。 だけど享と一緒の時間を過ごしていたら “この人と結婚したらどんな毎日が待っているんだろう。” って少しずつ想像するようになっていった。 自分の気持ちには気づいていたけれど 待ち受けている現実に向き合わないといけなかったから “期間限定の恋。” って強がっていた。 伝えたい言葉さえ言わなかった。 でも今日からは2人ずっと一緒にいられる。 ずっとずっと享のそばにいられる。 私たちの中に生まれたものは奇跡なんかじゃない。 今日も明日も明後日もどれだけの時がたってもこれだけは変わらない。 『25歳、初めて会ったときは気づかなかった。 26歳、本当の恋を知った。 27歳、永遠の愛を誓う。』
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