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深夜2時にツレを呼び出したのは “ひとりでも大丈夫。“ なんて強がりを嘘でも言えないぐらいデカいダメージを食らったから…。 『めずらしいな、こんな時間にお前が呼び出すなんて。』 『…。実花と別れた。』 『え?なに?急に。これ、ドッキリ?』 『…。正確に言うとフラれた…だけどな。』 『あー。まぁ…そうだろうな…。』 『なくして気づく大切さってやつ。今噛みしめてた。』 『遅くね?なくす前に気づけよ。』 『…。俺は何があっても実花だけは俺のそばにいてくれるって思ってたから…。』 『その自信が招いた、身から出た錆ってやつだな。』 “別れる。さようなら。” 頭の中で鳴りやまないこのフレーズは ここまでどうやって来たのか、俺の記憶をすべて吹っ飛ばすほどの衝撃的な一言だった。 ただ、部屋を出ていった実花が正しいことだけは鮮明に覚えている。 一応、言っておくけど 浮気をしたことは1度もない。 それだけは胸を張って言えるし実花にそこを疑われたことも1度だってない。 だけど ”彼女を大事にしていたのか?“ と聞かれると嘘でも “していた。” とは答えられない。 いつものように約束をドタキャンして男飲みを優先した俺に実花がかなり怒っていることはわかっていた。 長い沈黙の後 『悪かったって。明日埋め合わせするから。』 といつもと変わらない定型文を言った俺に 『今日が何の日かわかってる?』 と冷たい声で聞いてきた。 答えられなかった俺を涙目で見ながら 『別れる。さようなら。』 と言って彼女は部屋を出ていった。 机の上には合鍵がおいてあったから俺が答えられないことをわかっていたんだと思う。 『で、何の日だったの?』 『付き合った記念日…。アイツ、誕生日もクリスマスも忘れていいけど付き合った記念日だけは運命が決まった日なんだから一緒にお祝いしようって昔から言ってて…。』 『運命?ちょっと意味わかんねーけど…。 お前マジで終わってんじゃん。それはフラれて当然だって。』 『んなこと、言われなくてもわかってるから こうやってお前を呼び出してんだろうが…。』 『てことは、そのあとは実花ちゃんに連絡はしてないってことだな。』 『どのツラ下げて連絡できるんだよ…。』 1年前の今日、俺は無くしてしまった。 大事すぎるほど大事なものを。 あの日から今日までその代わりになるものを見つけることはできなかった。 そんな俺に 夢か幻か、さよならを告げた彼女が今 キスをしている。 あの日から1年たって、今どういう気持ちで 俺にキスをしているのかさっぱり検討もつかない。 『ちゃんと、反省した?』 と笑って聞く彼女に、あの日と同じでなにも答えられない俺は 言葉にならないこの気持ちを強く彼女を抱き締めることで伝えた。 実花ならすぐ新しい男ができると思っていた。 俺が約束を破るたびに “男なんて捨てるほどいる。“ って定型文みたいによく言っていたから。 でも、今ここにこうしているってことは 彼女の横には誰ひとりいないってことだ。 今日は付き合った記念日でもあるけど、別れた日でもあるから 大それた夢を見ているのかもしれない。 だけど、今抱き締めてる女はまぎれもなく俺が1年前になくした死ぬほど大事な女だ。 『やり直したい。』 なんてわがままが言える立場じゃない。 言えないことも分かっているから “ちゃんと反省した?” の返事には 『俺は浮気をしない真面目な男だよ。俺は絶対お前の運命の相手だって言い切れる。だから付き合ってよ。』 って3年前にした告白と同じことを言った。 3年前とも1年前とも違うのは もう絶対に離しはしないし、泣かせないと 胸に誓ったことだ。
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