Song of Love -Piero-

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Song of Love -Piero-

『綾は誰のことが好きなの?』 隣で寝ている彼女にそっと問いかけた…。 だけど本当は 答えを知るのが怖いし 愛されている自信もないから 面と向かって聞きたくないし知りたくもない。 もし俺が同じことを聞かれたら迷うことなく “綾。” と答えるけれどそれを彼女の前では言うこともできない。 彼女が遠距離恋愛に疲れていることを知っていてアプローチをした俺は 彼女がいつ彼氏と別れていつ俺の彼女になったのかわかっていない。 よくある自然消滅で終わった恋に よくあるなんとなく始まった恋だ。 俺の気持ちは幾度となく伝えてきたけれど関係性が変わったあの夜からは彼女に1度も “好きだ。” とは言っていない。 言えなくなってしまった…。 重たいと思われたくなくて 気持ちを伝えることができなくなり 無くしたくなくて 気持ちを聞くことができなくなった。 常にジレンマが俺を支配していて身動きがとれない。 因果応報とはよく言ったもので きっと俺も誰かに彼女を奪われてしまう。 そんな不安がつきまとう。 彼女にとって俺は都合のいい男なのかもしれない。 そんな不安もつきまとう。 だけど彼女が男を良いように利用する悪女であってくれた方が俺にとってはいいのかもしれない。 それこそ俺はピエロだったと諦めがつく。 もし綾がこの恋を永遠と呼べないなら 一緒にいる今だけは俺のことが好きだと嘘をついて欲しい。 もし綾が俺の目の前からいなくなったら “夢の中でもいいから会いたい。” と願う。 一見ロマンチックに思えるこのフレーズもよく考えたらただのクレイジーな男の戯言だ。 こんなことを考えているうちにいつの間にか寝落ちしてしまった俺は少し開いていたカーテンの隙間からさす陽の光で目が覚めた。 隣をみると綾はまだ眠っている。 俺ももう少し寝ようとウトウトしだしたとき 『願い事が1つだけ叶うとしたら聡史は何を願うのかな…?』 寝ていたはずの綾が俺にそっと問いかけてきた。 『私はね…時間を戻したい。それで聡史に好きって言いたい。信じてもらえないのが怖くてあの夜、気持ちを伝えられなかったから…。』 そう言って彼女は俺の体に寄り添ってきた。 今が“好きだ”と言って抱き寄せるタイミングなのはわかっていたけれど口を開いたら涙が溢れでてきそうだったから俺は何も言えなかった。 だけどわかって欲しい。 好きな女には涙を見せたくない男のちっぽけなプライドを。
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