Bud of love

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Bud of love

30歳を過ぎてからは恋愛がノルマのように思えていた。 子供がいないと… 結婚していないと… 彼氏がいないと… 好きな人がいないと… 女としての価値がないように思われている気がして とにかく恋愛をしなくちゃ。 誰かと付き合わなくちゃ。 使命感のように思えていた。 “条件があう誰かと付き合ったら結婚したら、いつかはその人を好きになることができますか?” “30過ぎての恋愛に結婚に、好きっていう気持ちを求めるのは痛すぎますか?” 誰かを喜ばすために安心させるために行き急いで恋愛をする事が正しいとは思っていないけれど 今の私は 仕事をこなすようにお見合いをこなして 契約書を作成するようにアプリの登録をしている。 『はぁー。』 と書庫で大きなため息をついた。 探しているデザイン本が見つからなくて仕事が滞ってしまっている自分と パートナーを見つけられず追い込まれてしまっているプライベートな自分がリンクして嫌気がさす。 『チーフどうしたんですか?』 『え?なにが?』 『何って、ため息ですよ。』 頼んでいた資料を持ってきてくれた田崎君が心配そうな顔をして私を見ている。 “探しもの=男が見つからない。” なんて事言えるわけもなく 『ため息ついてた?ごめーん。全然大丈夫!それプロジェクトのやつだよね?ありがとう。』 と言ってごまかした。 『残業しすぎじゃないですか?みんなもう帰ってますよ?』 『うん。そうだね。デザイン本だけ見つけたら終わりにするよ。田崎君は先に帰ってね。』 そう言って私はまた棚に目をやり本を探しはじめた。 田崎君は同じプロジェクトの一員でよく気が利くし仕事も早い。 5歳年下だけど、それを感じさせないほど落ち着いている。 だからと言って私の恋愛対象にはならない。 そんなことをしたら今度こそ本当に世間様から呆れられてしまう。 『うわっ。あんな上にあった。届くかな。』 指の先で資料を取ろうと一生懸命に背伸びをするけれど届きそうで届かない。 “ヤバっ!腕がつりそう。”って思ったとき 後ろからフワッと私を包みこむように田崎君が手を伸ばして資料を取ろうとしてくれてビックリした私は思わず振り返ってしまったから 想定外の壁ドン状況になってしまった。 至近距離に田崎くんの顔があって恥ずかしさから体温が上がっていくのがわかる。 『さすがにあの高さは届かないでしょう。』 と笑いながら本を手渡してくれる姿にドキドキしてしまい 『ごめんね。ありがとう。助かった。』 と言うのが精一杯だった。 普段なら後輩に男センサーが働くなんてことはないけれど 引き締まった二の腕 シャツからさりげなくする香水の香り なによりもこのシチュエーション すべての事がうまく混ぜ合わされてしまって酔いしれてしまった。 この日から事あるごとに田崎くんが気になってしまってしかたがない。 どうする? “一瞬の気の迷い。” って思って片付ける? それとも “恋に落ちた。” って認める? 最近の私は田崎くんを意識し過ぎてしまってカッコ悪い姿ばかり見せてしまっている。 目が合うだけでドキドキしてしまって今まで通りにはできていない。 もはや今までどう接していたのかも思い出せない。 これが恋の始まりなのだろうか。 私の心はやられてしまったのだろうか。 少し目が合うだけで優しくされるだけで 嬉しすぎて何も手につかなかったりしてしまう。 これを恋と呼ばずなんと呼ぶのだろう。 目で追い始めるときりがない事はわかっているのに見てしまう。 これをはまっていると言わずなんと言うのだろう。 見つめてみようかな。 否定してもきっと否定しきれない。 それなら小さく生まれて大きく育ちはじめてしまっているこの気持ちに向き合おうかな。 恋愛を本格的にノルマだと思ってしまう前に。 誰かのためだけに行き急いでしまう前に。 使命感ではなく素直な気持ちだけで。 好きっていう感情だけで。 この気持ちを最後の恋だと決めて。 せめて自分のなかだけでも…。 そんな風に思い始めていたとき 『チーフ、今晩2人だけで飯いきませんか?』 と廊下ですれ違いざまに田崎くんから誘われた。 嬉しすぎる気持ちをどうにか押さえ込んで 『どうしたの?急に。』 と答える。 『毎日頑張っているチーフをもてなしたくて。生意気ですけど。』 と少し照れながら言う田崎くんにキュンとしてしまう。 5歳年下にからかわれているだけかもしれない。 遊ばれるだけかもしれない。 これは好意ではなくてただの社交的お誘いなのかもしれない。 バカを見るかもしれない。 恥ずかしいことになるかもしれない。 誰も幸せにできないかもしれない。 だけど少なくとも私は幸せな気持ちになれる。 それに気づいてしまったら答えはただひとつ。 『行こうかな。』 これだけだ。
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