First Impression

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出版社に入社して7年。 来月にはとうとう31歳になる。 私は春の人事異動でエリア雑誌からライフスタイルファッション雑誌【wizm】の担当に変わった。 編集長は社内でも有名な西條さん。 数々のメジャー誌編集を経験されていて 担当した雑誌は必ず売り上げ部数が伸びる。 やり手でビジュアルもセンスも良い。 だけどかなりの変わり者。 私も編集者として一度は一緒に仕事をしてみたいと思ってはいたけど、いざ部下になるとあの変人ぶりに半年たった今も毎日手を焼いている。 wizmは個性豊かな人たちの集まりで同期の美希もいた。 美希はさばさばしている姉御肌で私の良き相談相手。 『編集会議始めるぞー。』 西條さんの一言でみんなが集まる。 次々号の企画内容が発表されて担当が振り分けられた。 『既存コーナーは新しい切り口の提案。新コーナーの担当は紗良。特集①は美希、②は田嶋でいく。全員、企画書をすぐ提出。以上』 と西條さんの指示がとぶ。 『紗良悪いんだけど14時からartデザイン行ってくれない?広告の打ち合わせで。ほら、あの結婚式場の。』 と副編集長の鞠子さんが言った。 『私は良いですけどあの担当って美希じゃなかったですか?』 『美希は担当がありすぎるから振り分けだ。』 と西條さんが言う。 『了解です。』 そう返事をして私は美希から引き継ぎの資料を受け取った。 10月ともなると気候もよく昼間の外出は気持ちが良い。 artデザインに着いてロビーで担当の方を待っていると後ろでバサバサッと音がした。 営業から戻ってきたのか電話をしながら資料を見ていたようで手から滑り落ちたみたい。 拾うのを手伝うと、その人はすぐ電話を切って 『すみません。ありがとうございます。』 と爽やかな笑顔でお礼を言って立ち去って行った。 私もそのあとすぐに事務の子がロビーまで迎えに来てくれたので会議室に移動した。 “あの人、爽やかだったなー。” なんて思い返していると 『失礼します。』 と言って男性が2人入ってきた。 名刺交換をしようと顔をみると “さっきの爽やかイケメン!” 急にドキッとする。 打ち合わせを進めていくと、若そうなのにしっかりしていて好感度も高い。 この出会いを運命と思うほど若くもないし乙女でもない。 それなりに恋愛経験もしてきたからどちらかと言えばシビアにとらえられる。 第一印象で物事を決めるタイプでもないし もちろんこれは一目惚れでもない。 だけど、めぐり逢いっていつも突然で予想外な出来事なんだなとは改めて思った。 この日を境に 打ち合わせやクライアントの結婚式場に2人で行ったりと広告が出来上がるまでは会うことが増えていった。 回を重ねる事に、別れた後は心がざわつくようになっていったけれど プライベートの関わりはなくいまだどんな人かわからない。 なのに、あの笑顔が忘れられず思い出してしまう。 “これって恋が始まる予感?“ 恋人たちは最後は永遠を誓いあうけれど 気持ちにはタイムラグも熱量もあるから 実際、恋愛の始まりなんてどちらかの片想い。 知らないうちに人混みの中で風邪のウィルス貰うように家に帰ってこれは恋なのかもしれないと気づく。 27歳、爽やかイケメンは 来月で31歳になる女を女としてみてくれるだろうか。 私が感じているこの胸のときめきを彼も感じてくれているだろうか。 とりあえず、仕事仲間からスタートして色々知っていくしかないけれど まずは美希に感謝しなきゃ。 『美希、結婚式することになったらスピーチはお願いね(笑)』
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