Sky

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“とにかく女の子には優しくすること。” これを7歳上の姉貴に幼稚園の頃から呪文のように教え込まれた俺は スマートな立ち居振舞いと容姿の良さで学生時代からかなりモテてきたけれど 付き合う女の子とは誰1人と長続きすることはなかった。 別れる理由は決まって同じで “準は誰にでも優しいから不安になる。私だけを特別扱いして。” と言われ、最終的にはフラレる。 俺には彼女達が言っている“特別”の意味がよくわからない。 姉貴は “代わりのきかないもの。無条件でこの子だと思うこと。見返りを求めずなにかをしてあげたくなること。” と言っていたけれど どれもピンとは来なかった。 25歳ぐらいまでは “告白をされる=付き合う” の方程式だったけれど 大人になってもフラレる理由はやっぱり変わらなくて それならいっそ誰とも付き合わない方が楽だと悟りを開いてからは趣味や仕事が今まで以上に楽しくなり 女の子との付き合いなんて了解さえしてくれれば一夜だけで十分になった。 彼女がいなくて困るようなことはぶっちゃけないし俺はきっとこんな感じで5年・10年と年を重ねていくと思っていた。 そんな俺に形振りかまわず会いに行きたくなる彼女ができるなんて思いもしなかった。 “たった1秒でもいいから一緒にいたい。 彼女に巡り会えたのはこの上ない奇跡だから声が聞けるなら温もりを感じられるならどんなに疲れていても会いに行く。” そんな風に思うなんて今までの俺からは考えられない。 それこそ奇跡だ。 だから彼女には何度フラれても諦めどころがわからなくて 自分から告白なんてしてきたことがなかったから何をどう伝えたらいいのかわからなくて “絶対に大事にするので。” とか “楽しませます。” とかアホみたいなことばかり言ってしまって いた。 当たり前だけれどそんなフレーズが彼女の心に響くことはなく “相手が男でも女でも誰かを大切にするのは当たり前。それを公約みたいに言う人にあまり惹かれないかな。” とか “男と楽しみたいならホスト行けばよくない?” とか ごもっともなことを言われてフラれていた。 告白の回数も数えきれなくなってきて そろそろ脈なしな現実を受け入れないといけなくなって これ以上続けても本気度が伝わるどころか 彼女に呆れられると思ったから これで本当に最後にしようと “好きなんです。付き合ってください。” と超シンプルに気持ちを伝えてみると 彼女は笑って “それが1番嬉しいよね。私でよければ。” と言った。 結局、大事なことって“好き”かどうかで 一緒にいれば悲しいことも嬉しいことも楽しいこともたくさんでてくるから その都度2人で対応していくしかない。 お互いの気持ちさえあればある程度は乗り越えていける。 まともな恋愛をしてきてない俺でもそれぐらいのことはわかった。 彼女に会いに行くときは見慣れた景色がいつもと違って優しく見える。 彼女に会いたいと言われただけでバカみたいに喜んでしまう。 だけど彼女は俺よりも仕事の方が大事で 『今から会えない?』 『無理かな…。まだ残業してるし。』 『終わる頃に迎えに行ってもいい?』 『無理かな…。時間気にして仕事したら中途半端になっちゃうし。』 『一緒に暮らさない?』 『無理かな…。家でも仕事するときがあるから集中できないし。』 といつもこんな感じで軽く後回しにされてしまう。 それでも俺は彼女のことが好きでしょうがないんだ。 彼女と出会ったあの日から思い描くのはいつも彼女との未来ばかりで “どうすれば彼女に繋がる橋を架けれるのか。” と考えてしまう。 今の俺は彼女にすれば2番手の存在かもしれないけれど 見上げた空に彼女の笑顔を浮かべてみては 俺にできることはこの空のように大きな気持ちで彼女を包むこと…。 ただそれだけなんだと思う。 それがいつか彼女の特別に変わることを信じて…。 きっとこの感情こそが俺にとっての“特別”なんだと思う。
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