Strangers

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いつのまにか冷たい風が吹く季節になっていて 見慣れた景色がいつもより淡く見えるような気がした。 相変わらずこの街は人で溢れかえっているけれど すれ違う人たちは寒さからか足早に我が道を進んでいる。 温もりを感じない寒々としたその風景は 変わってしまった俺の世界とよく似ていて リアルに淋しさを感じてしまう。 街中で髪をかきあげる仕草を見かけるたびに彼女を思い出す。 記憶はどのくらいの時間がたてば薄れていくのだろう。 共に過ごした時間を忘れるにはどうしたらいいのだろう。 情けないけれど俺は28歳になってもその答えを知らないでいる。 別れることが彼女のためだって 2人のためだって そう信じて別れを告げた…。 だけど今でもそれが正しかったことなのかは わからない。 もう一度2人が出会えたならあの頃のように戻れるのだろうか…。 答えはきっとNOだ。 今の俺が昔と変わらず彼女のことを思っていても現実はそううまくはいかない。 俺ら2人はきっと目も合わさず他人のように振る舞うのだろう。 だって今となれば俺らは何の関係も持たない ただの見知らぬ人同士なのだから。 刻まれた記憶が自然と消えていくまで待たないといけないのなら強制的に忘れてしまいたい。 どれだけバカをやって笑い騒いでいても いつだって頭の片隅で彼女のことを考えてしまっている。 別れを選ぶことが優しさだと信じていた。 彼女の気持ちを傷つけ苦しめるとしても。 もう一度2人が出会ってもあの頃のようには戻れない。 温もりを感じない寒々としたこの風景のように俺たちは目も合わさずきっと他人のように通り過ぎてく。 見知らぬ人のように…。 “時間がすべて解決してくれるよ。” なんて言葉はいったい何の役に立つのだろう。 この気持ちを救ってくれるのは今となれば彼女の存在だけだ。 もう一度2人が出会えたなら目を合わせて笑いあいたい。 遠距離恋愛だった恋人たちの再会のように。 今はまだあの頃のようには戻れないとしても…。
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