Prayer

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Prayer

昔は願い事なんてくさるほどあった。 あれもこれも欲しいものばかりで あれもこれもしたいことばかりで 何が大事で何を大事にしないといけないかなんて わかっているようで全くわかっていなかった。 来るもの拒まず去るもの追わずの人生は良いとこ取りで楽しかったし 辛いことや悲しいことには目を背けて 楽しいことしか見ないようにしてきた。 俺の28年という歴史はある意味フェイクで出来ていたのかもしれない。 だから今でも信じられない。 たった1人の人と出逢っただけで 暖色で構成されていた人生に寒色がうまれ 時には七色になり 時には真っ黒になり 陽で構成されていた感情に陰がうまれ 時には怒り悲しみ 時には辛く泣き崩れる。 彼女と出逢ってからの俺はある意味リアルになったのかもしれない。 守ってあげたいなんておこがましいけれど 守ってあげたくなったり 包み込んであげたいなんて大人の包容力もないくせに思ってしまったり。 溢れてくるこの思いを止められない。 胸の鼓動が収まらない。 目の前に彼女がいることは運命以外のなにものでもない。 彼女はよく 『私を大事にしてくれているのはわかっているし私と遊ぶのも良いけれど、前みたいに男友達とも遊びなよ。 何かあったときに助けてくれるのはやっぱり友達だよ。 身近にいる人を大切にできない人は愛している人の事も大事にできない。 陸には今以上に良い男になってもらいたい。』 と言ってくる。 俺だって本当はちゃんとわかっているんだ。 仲間は彼女とは別の次元で大事な存在だし大切にしていきたい。 だけど不安なんだ。 俺の目の届くところに彼女がいないと どうしようもなく不安になるんだ。 他のことに意識を向けられるだけの余裕が今の俺にはない。 こんなにも誰かのことを好きになったことが今までなかったから この気持ちの扱い方も向き合い方もわからない。 365日24時間一緒にいないとなくなってしまいそうな気がするんだ。 “会えないときが愛を育み2人の絆を強くする。” そう思いたいのに心がついていかない。 ただただ隣にいたい。 こんな些細なことが今の俺の願いなんだ。 『私に愛されているのか不安だって陸は言うけれど、陸はあの出会いが偶然だって思ってるの?』 と彼女が不意に聞いてきた。 『あの出会いって俺たちがはじめて会った日の事?』 『あの日、陸が1人であの美術館に行くことを私は知ってたの。 陸の友達に教えてもらったから。 あの日で閉館してしまうから陸は必ず最後の時間まであの場所にいるって。 だから私は陸が気に入っているあの絵を何度も見に行って、すこしでも陸に近づけるように。少しでも陸の好きなものを知りたくて。 陸、この恋は陸だけのものじゃないよ。 陸の片想いじゃない。 この恋は2人のものだよ。』 『俺のことをあの日より前から知ってたってこと?』 『一生秘密にするつもりだったけれど あの美術館であの絵の前で泣いていたのを見たの。 その時、この人はなんて綺麗な涙を流すんだろうって思った。 嬉しい涙でも悲しい涙でもなく、何色にも染まっていない綺麗な涙に見えた。 だからずっとその事が頭から離れなくて…。1ヶ月ぐらいたったときかな。 友達の応援で行ったフットサル場で陸を見かけたときは運命だと思った。 だから陸の友達に声をかけて協力してもらったの。 欲しいものを得るためには手段なんて選んでいられなかった。 私、相当ヤバイよね。』 『…。』 『だから陸には私の事だけじゃなくて、前みたいに自分の好きなことを楽しいと思えることをして欲しいの。 またあの時みたいに綺麗な涙を流したり 友達とフットサルを楽しんだり…。 私が一目惚れした時みたいにキラキラしていて欲しい。』 『うん。わかった。ありがとう。 俺だけがすごく好きなんだと思っていたからすごく嬉しい。 またフットサル始めるよ。 あとは気になっていたゴルフも…。』 『うん。よかった。ちゃんと気持ちが伝わって。 あ、だけど他の女の子と仲良くしたりとかはダメだよ? ずっと私の事だけを好きでいてね。』 『…。』 なにその可愛いすぎる発言。 そんなこと言われたらやっぱり365日24時間、彼女の事しか考えられない。 『ごめん。“わかった。”は前言撤回させて。しばらくはやっぱり無理だ。』
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