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Anyway very much
3年も付き合っていたら
彼女がオレのことを手に取るようにわかるのは自然なこと…だと思う。
オレは毎日会いたいタイプではないし
仕事忙しいし
したいこともたくさんあるから自分の時間は大事にしたい。
恋愛で無理をしたらモタなくなる。
そんなオレを一番理解してるのは間違いなく彼女だ。
*********************
いつもより少し早い時間にスマホが鳴った。
彼女からだ。
オレたちは毎日だいたい同じ時間にたわいもない話を思いつくままにダラダラとするのが日課で
会う回数が少なくても関係が維持できているのはこの電話のおかげだと思う。
とは言え8割は彼女が話していて、オレはそれに相槌を打つだけだから彼女は時折
“ちゃんと聞いてる?”って確認してくる。
オレはめんどくさいから適当な相槌を打ってるわけじゃない。彼女の声が心地いいから、ふわっとした気分になれるからついつい彼女に会話の主導権を渡してしまうだけ。
相槌の理由が彼女の楽しそうな声を聞くのが幸せでホッとするなんてこと恥ずかしくて言えない。
「ねぇ、次会えるのって…。」
『んー?このまま仕事が順調に行けば、来週水曜かな。今週は明後日から火曜までは海外出張だし。』
「そうだったね。今月は仕事忙しくて出張も多いって言ってたよね。」
『うん。あ、でもちゃんとご当地土産は買ってあるから楽しみにしとけよ。まとめて渡すから…。』
「楽しみ。」
『その日はうち来る?』
「うん。ご飯作るね。」
『マジで?リクエストできる?』
「…」
『…?あれ?聞こえてる?』
「あーうん。大丈夫。聞こえてる。リクエスト聞いちゃうよ。」
ちょっと彼女の声色が変わったような気がした。
『どーした?』
「何もないよー。」
あ、元に戻った。だけど…。
『…なぁ。』
「んーなに?」
『言え。』
「え?」
『思うことがあるんだろ?言え。顔見れてるわけじゃないからオレも察せない。だから溜めんな。』
「…会いたい…。」
“会いたい”って…。
多分そうなんだろうなとは話してて感じてた。
昨日もその前も彼女は次いつ会えるのかを確かめてきてたから。
だけど素直に言われてビックリした。
彼女は絶対に言わないと思ってたから。
こういうところ、素直なタイプじゃないし
オレほどでもないけど
言ったら負けとか思ってそうだし
オレほどでもないけど
だけど、オレのことすげぇ好きだし
まぁ、うん。オレの方が好きだけど…。
『会いたい?』
「…会いたい…。」
『そっか。』
「…そっかってそれだけ?…もういいよ。」
また彼女の声色が変わった。
だからさ、可愛すぎるんだよ…。
そんな今にも泣き出しそうな声だすなよ…。
オレが今密かに耳に突っ込んだイヤホンを落とさないように着替えてるなんてこと、知らないくせに。
オレが風呂入った後に出かけるなんて仕事とお前以外のためには絶対にありえないなんて、知らないくせに。
『もういいの?』
「…。もういい。」
よくないだろ…。
お前がたとえよくても、オレがよくない。
車で20分。
たったこの距離なのに、この期に及んで“会いに行く”と言えないオレ。
たったこの距離なのに、今まで一度も“会いにきた。”と言ってあげれなかったオレ。
行動するなら今しかない。
鍵とスマホをポケットに突っ込んで、玄関のドアを開けた。
…
……
『は?』
「え?」
ドアを開けたら彼女が立っていて、オレと彼女は数秒見つめあった。
『なんでいんの?』
「会いたくて…。」
『今日、いつもより電話してくるの早かった。』
「うん。」
『オレ、家にいなかったらどうしてたんだよ。』
「少し待ってみようって思ってた…。」
『いや、マジかよ。』
オレが彼女の腕を引き寄せたことで玄関のドアはゆっくりと閉まった。
…今何時だよ。
女が1人で歩くのは危ないだろ。
お前ならオレがアポ無しの突撃訪問とか嫌がるのわかってただろ。
…可愛いすぎるだろ。
…こんなにも嬉しいものなのかよ。
『いや、マジで…。』
「…ごめんなさい。」
そう言ってドアに手をかけた彼女を逃がさないようにオレは鍵を閉めた。
『こういう時はオレに行かせろ。』
「仕事忙しいの知ってたし…。」
『来たんたら、チャイム押せよ。』
「ドアの前に立ったら、急に怖くなって…。」
『…。』
「アポなし訪問とか嫌いでしょ?」
『…お前、オレのこと舐めすぎ。』
彼女の言葉を待たず、とにかく無性に彼女を感じたくなったオレは存在を確かめるかのように強く抱きしめた。
“あー。やっぱり…。”
会いたかったのはオレだ。
合う口実が欲しいと思ってたのはオレだ。
オレのことを手に取るようにわかる彼女だからこそ、ツンデレだって言われそうで恥ずかしさから素直になれなかったのはオレだ。
でももうオレはお前がいないと色々無理。
3年経っても可愛いと思うなんて奇跡だろ。
「会いたかった…。」
オレの腕の中にいる彼女が涙声で言った。
『お前でもオレのことでわからないことあるんだな。』
「え?」
『だから、さっき舐めすぎって言っただろ?』
「…。」
『お前、マジで気づいてないの?オレがどれだけお前のことが好きなのか。毎日会いたいって思ってるのか。』
「…。」
『好きじゃなきゃ、こんな時間に会いに行こうとなんてしない。こんな玄関で抱きしめたりしない。オレが“らしく”ないことをするのはいつもお前のためだけ。』
「…。」
『なぁ…。』
「ん。」
『そろそろ一緒に暮らそう。オレもう限界…。
もうヤダ。』
「ヤダって…。駄々っ子みたい。」
『…。駄々っ子上等。』
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