Man

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“やられた” ここまで来たら悲しさを通り越してもはや笑ってしまう。 “男を見る目”なんてものはどこに行けばいくらくらいで売っているのだろう。 ”25年間共に生きてきたこの目と交換をしたい”と言っても許されるくらい 私は男を見る目がない。 駅に向かいながら数10分前に “安心して。君とあの子は別バラだよ。” とアホ男が悪びれもなく言った一言を思い出す。 ”別バラか…どっちがメインでデザートなんだろう” とどうでもいいことがふと頭をよぎったけど “アホらし” と次の瞬間、考えるのをやめた。 どこかの誰かが、何かの雑誌で言っていた。 【女は、人生で一度や二度は、ワルい男を愛してしまうもの でもだからこそ、イイ男に出会ったとき、感謝する気持ちになれる】 きっとその通りなんだろう‥。 だけど私は1度や2度じゃない。 両手ほどの恋愛をしてきたけれど、いまだイイ男というものに巡り会えていない私は あと何回、悪い男に引っ掛かればイイ男に出会えるんだろう。 【恋愛はチャンスを待っていても始まらない 恋愛は意思をもった瞬間に与えられる】 三輪大先生の言葉を胸に 果敢に恋に突っ走ってきた結果がこれだ。 きっと私に恋愛は向いていない。 だからといって、一人で長い人生を生きていけるほどの自立心も財力もない私は 向いていないとわかっていても恋愛に果敢に挑まないといけない。 そしてその結果を現実として受け入れ傷つくことが私の人生なのだとしたら どれほど無意味な時間と労力を使っているのだろう。 少なくともこれが幸せになる近道だとは到底思えない。 仕事が恋人だと言えたのなら 私の人生は何色になっていたんだろう。 ペットがいれば生きていけると言えたのなら 私の人生は豊かになっていたんだろうか。 あれこれ考えてはみるけれど きっと答えは全てNoだ。 仕事にやりがいがあっても ペットを我が子のように可愛がっていたとしても これはきっと別バラなのだ。 「別バラか‥。」 と思わず声が漏れてしまった‥ 本当はわかっている。 自分さえしっかりすれば目の前にある幸せにすぐ気がつくことができる。 大切に育むことができる。 そして大きな芽がきっとでる。 そうはわかっていても独り身は切ない。 もうすぐ駅の改札というところでスマホが鳴った。 “どうせあのアホ男だろう。きっと何事もなかったように連絡してきたんだ。バカにするにも程がある。” そう思いながら着信画面を確かめた。 【直樹】 “え?直樹?” 「もしもし。」 『あ、俺ー。今一人?大丈夫ー?』 「あーうん。数10分前に別れてきたところだからリアルに独りだよ。」 『ははっ。そっちの“ひとり”じゃねーっつーの。』 「そっか笑。で、どうかしたの?」 『いや、今○○駅にいてさ、近くにいるならコーヒーとか飲まないかなーって思っただけなんだけど‥。まぁ気持ちが渋滞してそうだからまたでいいやー。』 「行く‥。私も今○○駅だし。」 『即答だな。じゃあ、スタバで。』 ********************* 『はい。オールミルクハニーティーラテのグランデ。』 「何で?私の好きなカスタマイズわかったの?」 『何回も一緒にスタバ行ってんじゃん。』 「そうだけど、毎回違うのオーダーしちゃうのに‥。」 『今日は気分じゃなかった?』 「‥。あってる、気分だった‥。」 『それならいいじゃん。甘いもの飲んだら気持ちも緩まるだろ。』 「‥。」 『で?泰介は最低だなー。香澄がこんなにも好きなのに。』 「“好きだった”だよ。25歳になってもまだ浮気されるとか‥。ホント自分が情けない。まぁでも、これも直樹のせいだけど。」 『えー?俺が悪いのー?』 「そうだよー。泰介は直樹が私に紹介したんじゃん。」 『俺は香澄に幸せになってほしくて紹介したんだけどなー。』 「直樹、センスない。」 『言うねぇー。』 「次こそはいい人紹介してよね。」 『条件は?』 「まずは浮気しない人。」 『‥笑。まぁマストだな。』 「包容力。それと話を聞いてくれて甘えさせてくれて、記念日もちゃんと覚えてくれてる人。あとは私の性格を理解してくれる人かなー。ってそんないい男、なかなかいないんだけどねー。」 『‥いるよ。ここに。』 「えー?なにー?」 『さっきの全部当てはまる男、ここにいるじゃん。』 「またぁ、冗談いっちゃってー。」 『俺、本気なんだけど。』 「‥。」 『ずっと香澄が好き。 浮気なんて絶対しないし、話も聞く。 めっちゃ甘やかすし、記念日も大事にしたい。 香澄の性格はこの世の男で一番理解してる。 こんないい男、手放したら勿体ないよ。』 「‥笑。最後のが余計だなぁ‥。」 『だって本当のことだし。』 「でも、ホントそうかも。一途そうだし、実際こうやって話も聞いてもらってるし。直樹しかいないのかも‥。」 『でしょ?俺は今までの男と違って、香澄を裏切ったりしないよ。』 「しってる。」 『だからどう?次の相手に俺。』 「‥。有りかも。」 『よっしゃあ。』 我ながら単純。 目の前に座っている直樹の笑顔にドキドキしている自分がいる。 10分前まではなにも感じてなかったのに‥。 【イイ男に出会ったとき、感謝する気持ちになれる】 その通りだった。 私は今直樹に感謝している。 ずっと私の側にいてくれて好きでいてくれたこと。 ずっと直樹の優しさで包んでくれていたこと。 ********************* コーヒーをのみ終えてお店を出た。 『ん。』 その言葉と同時に直樹の左手が目の前に差し出される。 少し照れながら指先を軽く握ると “違うでしょ。こう”と言わんばかりに恋人繋ぎに変えられた。 チラッと直樹の顔を見ると耳まで真っ赤。 「笑。照れるならやめなよー笑」 『ちげーよ。照れてんじゃねえ。幸せ噛み締めてんの。』 「大袈裟な。」 『お前さぁ、俺がどんだけ一途に片想いだったか全然気づいてないだろ。3年だぞ? 男が3年女いないとか、マジで大変なんだからな?』 「‥。笑。ウケる。じゃあこの3年は女の子には触らず、私のことを考えてしてたんだ。け・な・げ。」 『‥。それは‥。違うけど‥。』 「違うんかい!サイテー。」 『いや、男だからしょうがないじゃん。だけど、全部ワンナイトだから。』 「‥。」 『相手のこと香澄ちゃんだと思ってしてたから。』 「‥。」 『ほら、見て?LINEに女とのやりとりほとんどないでしょ?』 「‥。毎回消してるだけかもしれないじゃん。」 『何でフリーでそんな面倒なことすんの笑』 「え?ちょっと待って。私のトーク、一番上でピン留めされてる。」 『あ‥。』 「ふふっ。ありがとう。」 『香澄からの連絡は絶対見逃したくなかったから。』 「女といても?」 『あ、一回あるわ。ラブホで。いい感じのとこまで来てた時に香澄から彼氏と別れたってLINEきて‥。俺香澄の名前見た瞬間、一気に萎えちゃって笑 相手の子を置き去りにしてお前のとこ駆けつけた。 俺の腕の中で泣いてる香澄を抱き締めるだけで満たされたなー。』 「いい話なのかアホ男の話なのかビミョー。」 『いい話。俺がどれだけ香澄ラブかわかるっていうエピソード。』 「あはは。」 『絶対、怒らない?』 「話による‥。」 『じゃあ、やめとく。』 「わかった。絶対怒らない。」 『したい。』 「サイッテー!」 『あーうそうそうそうそ。あと3年は待つからー。怒んないって言ったじゃーん。』
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