I want to be your boyfriend

1/1

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

I want to be your boyfriend

仕事終わりの唯一の楽しみは、ベランダで飲むビール。 なんと言っても、あの缶を開ける時の音が好き。 1日の終わりのような合図で、スッと肩の力が抜ける気がする。 足早に階段を駆け上がり、戦闘服を脱ぎ捨て、キンキンに冷えたビールを片手にベランダへ。 さぁさぁいただきましょっとビールの栓に指をかけた時、隣から聞こえた怒号に驚いて、缶が空いた音を聞き逃す。 “うっわ。最悪。美味しさ半減” 確かお隣さんって、あんまり顔は覚えてないけど若い感じの今どき青年って感じだっけ? パチンッ! 今度は平手打ち?みたいな音が聞こえた。 “はぁ、痴話喧嘩かよ。他所でやれって” って他所でやってるか笑笑 「さいってぃ!!!」 “あーぁ、別れたか…” なんかよくわかんないけど、こういう時って大抵男が悪いんだよねー。 ガラっ 今度はベランダの窓が開いた音がした。 『いってぇ…。』 さすがに気になって声をかけてしまった。 「あの…大丈夫ですか?」 『え?あー、人いたのか。ハズ。聞こえてましたよね?』 「まぁ…。」 ベランダの仕切り板越しにそう答える。 別に本当に心配して聞いたわけじゃない。 なんとなくっていうか… だから、そのあとは会話をするつもりはなく いつも通りビールを飲んで小さく“はぁー”と幸せな時間を楽しむ。 『ははっ。』 「え?…もしかしてみてました?」 声がした方に視線を向けると仕切り板からひょっこり顔を出しているお隣さんと目が合った。 「あ、えーと。ぜひ忘れてください。」 『ってか、ここ腫れてない?まじで痛いんだけど…。』 「えーっと、うーん、大丈夫そうだけど。」 『大丈夫そうだけど、何?自業自得って?』 「まぁ、そんなこと…ですね。」 『めんどくさいんですよ。記念日とか、他の女と話したら浮気だとか、そのくせ自分は男友達と飯行ったり…。』 「あー…。それは普段の行い…的な。」 『まぁ、確かに笑笑』 ほぼ初対面のお隣さんとなぜかベランダ越しでの世間話に花が咲き 結局1時間近く話してしまっていた。 「話し、いろいろ付き合ってくれてありがと。頬、お大事にね。おやすみ。」 『久々に下心なく女と話したわ。じゃあ、おやすみ。』       *** 『「あっ!」』 ハモった声に2人で笑う。 『朝とか会うの初めてじゃないですか?』 「どーなんでしょ。ぶっちゃけ覚えてないです。」 玄関のドアを開けたタイミングが同じで図らずとも駅まで一緒に行くことになった。 『ふーん、昨日とは180度違うね。』 「え?何が?」 『服。昨日はTシャツだった。』 「そりゃ、社会人なので。スーツまでは着ないけどそれなりには…」 『ふーん、で何時?』 「今?」 『今日、帰ってくんの。酒飲むんでしょ?』 「あー多分、18時半とか。」 『じゃ、一緒に飲も。』 軽いノリ?なのかスマートな誘いなのか… さらっとした一言だったから思わず“うん”と言ってしまった。 夜、約束の時間?にベランダへ出てみる。 そっと仕切り板の向こうを覗いてみるけど、お隣さんはまだ帰ってきてなさそう。 “まっいっか”といつも通り缶ビールを開けて飲みだす。 しばらくしたらバタバタした音がしてベランダが開いた。 『いる?』 「んー。」 『おーい、1人で飲んでんじゃねーよ。』 「えー、だっていつ帰ってくるかわかんないし。はい、ビールでよければどーぞ。」 『まじ?やった。』 「そっちこそ、180度違うじゃん。」 『何が?』 「服。昨日はTシャツだった。」 『まぁ、一応会社員なんで。ってこの件、朝もしたな笑笑』 そう言ってお隣さんはネクタイを緩めた。 「女って、男がネクタイ緩めるの好きなんでしょ?」 『君ねぇ、そういうのだから平手打ちされんの笑』 「あーもうそれはまじ勘弁。」       *** あの日から、お隣さんとは定期的にベランダ飲み会をしているけど なんだかんだ聞きそびれてる名前と連絡先のおかげで、お誘い手段は 【今日、19時ベランダ】と書かれたメモをお互いがお互いの玄関ドアに貼ることだった。 ビール、後何本ぐらいあったかなぁ。あ、サワー系も買っとこ。ついでにもちのいい野菜も…。 久しぶりに17時に仕事が終わってご機嫌でスーパーに寄る。 私の悪いところは、あれもこれもとかごに入れてしまい気づけば両手いっぱいに買い物をしてしまうところで、もちろん今日もそうなってしまった。 「おっも!」 「だろーな。なにその荷物。」 声がした方に振り返ると同僚の三嶋くんが立っていて 「あー、買いすぎちゃって。」 「家どこ?」 「歩いて10分ぐらいのとこ。」 「持つわ。」 「えー神!明日、コーヒー奢る。」 「せめて、飯にしろ。」 「じゃあ、奢らん。」 「うそうそって俺がいい事してんのになんで?笑笑」 「三嶋くん、家この辺なの?」 「いや、今日は友達ん家で飲み会で。そしたら目の前に見たことあるやついたから…。」 「そかそか。でも助かったわ。」 「はい、俺、神ー!」 なんてくだらないことを話していたらいつの間にか家の前で、三嶋くんから荷物を受け取る。 再び 「おっも!」 と言いながら数段ある階段を上がりエレベーターの↑を押し、降りてくるのを待っていたら、急に手が軽くなった。 『は?何これ、おっも!』 あれ?デジャブ?さっきも似たようなこと言われたけど…。 またしても声のする方に振り返ると今度はお隣さん。 「え?あー、ごめん、ありがと。買いすぎちゃった。」 『何、1人で持って帰ってきたの?』 「入り口までは偶然会った同僚が持ってくれて、ここまで運んでくれた。」 『は?男?』 「うん、そう。」 『バカじゃん。呼んでくれたら行ったのに。』 「…てか、連絡先知らんけど。」 『…確かに。じゃ交換しよ。』 今更ながら連絡先を交換して、今更ながら名前を知る。 「あ、ここでいいよ。」 玄関前で荷物を受け取ろうとしたら 『中まで運ぶ。』 「えーちょっと散らかってるからやーだ。」 『ほんとだ。』 「おい、グーパンすんぞ。」 『うそうそ、綺麗に片付いてんじゃん。あー重かった。ビールちょうだいよー。』 「ベランダ飲み会しないの?」 『なんで家来たのにベランダわざわざ出るんだよ。』 「それもそっか。じゃあ、なんか軽くご飯作るよ。荷物も持ってもらったしお礼に。」 『まじ?ラッキー。』 いつもと違う飲み会が始まった。 『なー、さっき言ってた同僚ってイケメンなの?』 「あーうん、そうだね。10人女の子がいれば8人はそう言うと思うよ。」 『それって、お前も?』 「もちもち。」 『俺の方がイケメンじゃね?』 「…何それ笑笑」 『仕事できて優しくてイケメンってやつ?』 「まぁそうだね。」 『俺の方が優しくね?』 「…だからさっきから何それ。」 『そいつのこと好きなの?』 「んー、嫌いな人はいないと思うけどなー。」 『じゃなくて、そういう好きじゃなくて。』 「えー?まぁ、告白されたらなくはないよねー。」 『…ムカつく。帰る。』 何がそんなにムカついたのかお隣さんは急に立ち上がって帰ってしまった。 静かになった部屋に1人取り残されて、ふとお隣さんが座ってたところをみるとスマホの忘れ物。 “仕方ない。届けるか”と玄関のドアを開けたら 『…おっせぇーよ。』 と腕組みをして壁にもたれながら立っているお隣さんがいた。 「コレでしょ?気づいてたんなら取りにきなよ。」 『…ちげぇよ。それはお前が、俺の気持ちに気づいて持ってくるように置いといてあげたんだろ?』 「なにそれ。」 『何それ、じゃねぇよ。そのスマホん中、女の連絡先もう一件もないから。』 「は?」 『だーかーらー、女は全員切ったから。』 「なんで。」 『まじで、わかんないの?』 「…。」 『もう、飲み友のお隣さん卒業したいんだけど。』 「ん?」 『いや、だからさ、もう、まじで。言わせんなよ。』 「…。」 『女は全部切ったから、完全にフリー。だからお前の彼氏になりたいって言ってんの!』 「ふふっ。わかってたよー。」 『ずっる!わかってたんなら言わせんな!』 「ほら、君。日頃の行い悪いから、ちゃーんと言葉で言ってもらわないとね笑」 『まじか。』 「どうする?ベランダ飲み会する?それとも部屋飲みする?」 『そんなん決まってる。もちろん、部屋飲み。』 「ベランダじゃないんだ笑」 『仕切りがあったら触りたくても触れないだろ。』 「…君、そんなだから平手打ちされんのよ?笑笑」 ベランダから始まった関係は今日新しい関係に変わった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加