Relax

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半年前から湘南で彼女と暮らし始めた。 知人が紹介してくれた物件で部屋からは海が見えるし、もちろん海岸も近い。 俺は朝、サーフィンをしてから仕事に行くのが日課で 彼女はシフト勤務だからわりとゆっくりしている。 俺たちは付き合って2年がたつけれど お互いの仕事が忙しくて一緒の時間が中々作れないだけで、関係は順調だ。 潮の香りと太陽の光で目が覚めた。 時計を見ると朝9時。 彼女はまだ眠っている。 朝ごはんを作るのはほとんどが俺だけど 2人の休みが重なった今日は もう少ししたら彼女を起こして 一緒に海沿いを散歩してからカフェにでも行こうかな。 俺が昨日 『明日、なにする?』 って聞いたら 『美味しいご飯でも食べながら、疲れきった体を労おうよ。 “お互いもう若くないねー。”なんて言いながらさ。』 と彼女は言った。 だから俺は、こじゃれたレストランのディナーを予約しといた。 寝起きの彼女を誘って、外に出てみると空は快晴。 『こんなにお天気ならドライブにでも行けば良かったかなー。』 と俺が言うと 『2人ならどこでも楽しいし、むしろ日常を2人で過ごせることの方が幸せじゃない?』 と彼女が言う。 俺はせっかくの休日を “THEデート“じゃなく “ま、いっか“ 的に過ごしたいっていう彼女が好きだ。 だからといって、デートをしないわけじゃない。 必ず、最低でも月2回はどこかに出掛けている。 だけど、俺も彼女と同じで 彼女がいればどこで何をしてても楽しい。 『風、気持ちいいね。サーフィンしたいんじゃないの?』 『今日は、こうやって海を見ながら美咲と散歩したい。』 『でた!美咲ラブ(笑)』 『なんだそれ(笑)』 『じゃあさ、カフェはやめてパンを買ってきて海を見ながら食べよっか。』 『それなら車取りに戻って、美咲の好きなベーカリーショップに行こうよ。』 『でた!美咲ラブ(笑)』 なんてくだらない話をしながら海沿いを歩く。 なんでもない日常こそが、幸せだよな。 彼女の笑顔を見ているとつくづくそう思う。 俺との時間より仕事を優先しちゃう彼女だけど、疲れすぎちゃってバスタブの中で寝落ちしちゃってるところとか可愛くてしょうがない。 “ま、いっか。明日のことは明日考えよ。” って前向きなんだか楽観的なんだかわからないけど、彼女がそう言うならそうなんだろうと不思議と思える。 『ねぇ、今日はディナーどこを予約してくれたの?』 『内緒。』 『行ったことないところ?』 『内緒。』 『プロポーズでもするの?(笑)』 『内緒。』 『内緒なのか(笑)』 彼女の感が鋭くて困る。 今日ではないけれど、俺は同棲を始める前から彼女との結婚を考えていて タイミングを計っていた。 けど、タイミングよりも何よりも俺が困っていたことは “エンゲージリング”だ。 彼女はよく家で 『男の人って結構悩むんだよね。どれを買ったら喜ばれるのかわからないみたいで。 好きな人から貰えたら価格もデザインもあまり関係ないと思うんだけどなー。』 って言っていたから。 そう、彼女はジュエリーショップで働いている。 だからこそ、悩む。 価格もデザインも、それこそどこのブランドを買うかも…。 さすがに買いに行く勇気はないから、スマホだけれど 俺の最近の愛読書は、ゼクシィだ。 もう、俺が女で彼女が男のような気がしてならない。 【婚約指輪はサプライズ派?一緒に買いにいきたい派?】 めっちゃ、良い特集をやっていた。 僅差ではあったけれど、一緒に買いに行きたい派が多いらしい。 よし、これで彼女を買い物に連れ出して一緒に選ぼう。 そう思っていたから、昨日の夜 『明日、なにする?』 って聞いたんだけどな…。 意外な答えが返って来て、今に至る。 このリベンジは次の2人の休日になる。 だから、今日のディナーで 『次の休みはエンゲージリングを買いに行こう。』 と言うつもりだ。
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