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藤原紘斗。
都内でITベンチャーの若手社長を担っている。大学在学中から起業し、約十年であっという間に大きな企業となった。今や経済誌にも顔を出す存在となり、私の同級生ではトップレベルの存在だ。
私にとっては、古くから知る知り合いだ。
小学校、中学校、そして高校も同じで計十二年も同じ学校にいた。
今でこそ輝く彼だが、昔は、とても社長になるような存在には思えなかった。
*
高校一年の頃、女子が知り合えば当然のようにお互いの中学から来た男子の話題となった。
「真央と同じ中学の男子って誰がいるの?」
と果耶が聞いた。美穂も同じだった。
何人かの同じ中学からこの高校に来た男子の名前を挙げた。藤原の名前も出した。
しかし、二人にとって藤原は興味を引く存在ではなかった。それはほかの女子たちにとっても同じだった。
クラスの中でも地味な存在で、ボサボサの天然パーマで、おしゃれ感もない。何も目立たない。そんな藤原が女子の話題にあがることはなかった。
そんな彼が今や女性からの羨望の眼差しを集めている。
「すっごいよねー。同級生の特集記事を見るなんて思わなかったよ」
去年、結婚した美穂までもそんな目で見るのか、という有様だった。
果耶や美穂だけではない。入れ代わり立ち代わり何人かの女が藤原に話しかけている。あんな光景は高校生の頃には想像できなかった。
髪がサラサラストレートになり、スーツに詳しくはないが高そうなスーツを着ていた。外見が変わり、地位が上がり、確かに女子の注目を集められるようになったんだろう。中身は同じなのに。
「藤原くん、東京行ってから、垢ぬけたよねー」
果耶がウェルカムドリンクのワインを片手に私の横で囁く。
「なんかあいつじゃないみたい」
誰にも聞こえなかったのか、その私の呟きに果耶も美穂も反応してくれなかった。
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