テレビ会見

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テレビ会見

「おはようございます。これよりNIHON国総理より、緊急特別会見があります。我が国の将来がかかった非常に重要な内容ですので、国民のみなさんは必ずお聞きくださいますようお願いいたします。では、総理、お願いします」 「国民のみなさん、本日は重大なお知らせがあり、この会見を行うこととなりました。既にニュース等を通じ、ある程度はご理解いただいていることと思いますが、先ほど我が国はKAN国に対し、宣戦を布告いたしたところであります。 「誠に遺憾ながら、経済的には深い関係を結ぶ一方で、両国間には長きにわたる戦争責任の論議等があり、さらにはTAKE島という我が国固有の領土にKAN国側が領有権を主張するという領土問題がありました。 「率直に申し上げて、TAKE島問題は政治的な課題であり、その領有権が大きな経済的利益を伴うものではありませんでした。もちろんこれによって領海が変われば、漁業等への影響はあるものの、我が国経済の根幹を揺るがす規模ではありません。 「KAN国側におきましても、その点は同様であり、しかるがゆえ、KAN国政府が国民の不満や批判を表すようになると、その矛先を我が国に変えるため、時の大統領がこの問題を持ち出し、あるいはTAKE島に上陸するパフォーマンスをマスコミに取材させるなどして再燃させるに留まっておりました。 「しかるに、ご存知の通り、このTAKE島近海の海底に、豊富な鉱物資源が眠っていることが、最新の調査により明らかになったのであります。ために、TAKE島問題はにわかに経済的な重要性を帯びるに至ったのです。 「この資源が我が国に帰属するか否かは、非常に甚大な影響を及ぼします。とある試算によりますと、年間30兆円という巨額の経済効果が見込まれているほどです。 「ここで暫く、私自身のお話をすることをお許し願いたい。 「私が少年の頃、我が国は日の出の勢いにありました。BEI国の経済学者は我が国のそんな様を、ジャパン・アズ・ナンバーワンと表現したのです。当時我が国のGDPはBEI国に次ぐ世界第2位であり、いずれは抜き去るかも知れないとさえ言われていたのです! 「それがいわゆるバブルであったことは、90年代に入ってようやく明らかになりました。バブル崩壊、それに続く失われた10年、さらに続く失われた20年……その間我が国は中国に抜かれ、第3位に転落しました。 「それでもまだ第3位なんだから、と思われる方もいるでしょう。しかし、一人当たりの国民総所得、いわゆるGNIに直すならば、現在の我が国は22位に過ぎません! また最低賃金ランキングではアジアではトップであるものの、先進国では最低クラスの11位! 逆に、税金が高い国ランキングでは、なんと第2位なのです! これが意味するところは何でしょうか。それは詰まるところ、国が国民に重税を課して富を蓄え、企業もまた従業員に労働の果実を十分に分け与えず内部留保という名で貯め込んでしまい、国民はまったく豊かではないということです。その象徴が、自殺率ランキングにおいて、悲劇的な紛争のあったボスニア・ヘルツェゴビナの28位を遥かに抜いて、13位であるという事実でしょう。 「経済指標だけではありません。世界で評判のいい国のランキングでも我がNIHONはベストテン圏外の11位! 平和な国ランキングでも、世界で唯一の平和憲法を持ちながらなんと11位! 報道の自由度ランキングでは、かつては20位台にいたこともあったというのに、この10年ほどは67位にまで落ち込んだ年まである始末! 「結果として、国連が毎年発表する幸福度ランキングでは、58位に甘んじている! すなわち、一言で言うならば、我が国はいま、背水の陣にある、と申し上げても過言ではないのです! 「このように、NIHONが凋落した責任は、無論政治にあります。だからこそこうした状況を変革するべく、私は政治の世界に飛び込んだわけであります。 「以来、艱難辛苦を乗り越え、国民のみなさんのご支援を賜り、ついに昨年、長らく権力をほしいままにしてきた政権与党を打倒することが出来たのです。 「新たに総理を拝命した私は、まだ短い期間ではありますが、NIHONの国民が真に豊かになり、この国本来の姿を取り戻すために、一歩一歩着実に実績を重ねてまいりました。先に申し上げたTAKE島近海の深海調査も、新しい我が国の経済基盤を構築するべく私が発案した調査で、その結果、予想以上の鉱脈があることが判明いたしました。 「しかし、かねてより領有権を主張するKAN国は、自国では調査もせず、よい結果が出た途端に再度領有権を主張してまいりました。これは、いかに平和を愛するNIHONといえども、決して承服することの出来ない要求であります。 「いま、後のない我が国の状況に鑑み、私は総理として、このTAKE島問題にいまこそ決着を付けるべきであると信じ、議論によって収拾がつかない以上、実力で決めるしかない、と決断いたしました。 「そこで、本日、在KAN大使館を通じて宣戦布告の文書を通達したのです!」
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