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11  帰りの電車の中でも、彼の表情は青ざめたままだった。  私は、何と声を掛ければいいのか分からないまま、最寄りの駅までの、最後の乗り換えを終えた。彼の手は震えていて、私はそっと両手で彼の手に触れてみたけれど、すぐさま、その両手を振り払って我に返った様だった。 「ごめん」  どちらが先に言ったのかも分からなかったけれど、お互いにそう言って押し黙り、駅に着くと、さよならと呟いて別れた。  私の奥まで入ってきたあの時、彼は、声が聞こえたのだと言った。  その声とは、彼の前の彼女が飛び降りた夜、病院に駆けつけた時に聞いた、その子の断末魔の叫びだった。本来は意識の無かったその子が、叫ぶ事なんか出来る筈は無かったのに、彼はしばらくはその声が耳から離れず、眠れない日々を過ごしたのだと語った。  何故、急にそんな声が聞こえてきたのかなんて、分かる筈が無い。  もしかしたら私は声を上げてしまい、その声を聞いてしまった事で、私とその子が結びついてしまって、記憶が蘇ってしまったのかもしれないと思った。  私は、声を上げたつもりは無かったけれど、無意識に出てしまっていたのかもしれない。私が声さえ上げなければ、あんな事にはならなかったのかもしれない。  そして彼には、多分だけど、負い目の様に感じている部分があったのではないだろうか?  前の彼女は自殺をして、苦しんで死んでいったのに、自分だけは新しく恋をして、幸せになる事に、罪悪感を抱いてしまったのではないだろうか? 彼は、その子が自殺した事を自分のせいだと思ってる。  だから、聞こえる筈の無いその子の叫び声が聞こえたり、誰かを愛する資格なんて無いのに等と、言ってしまうんだ。  自分と出会わなければ、彼女は病気を全うしていた。それどころか、病気は良くなって幸せに暮らしていたかもしれない。彼の思考は、何処をどう辿ったとしても、そこに行き着くのだろう。  どうしても悲しくて、彼の心はどこまでも傷付いていて、私はそれから、彼とどう向き合っていけばいいのか分からなくなってしまった。  彼は、その子の断末魔の叫びが蘇る度に、自分を責めて、心の奥の深い闇の中に、その身を置くのだろう。
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