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14  自分の事で悩んで欲しくないという彼の願いに反して、私は今まで以上に、彼の事を考えてしまっていた。  彼との会話の中で一つ、どうしても聞き流せる筈のない言葉があった。  それは、俺に未来なんて無いよという言葉だった。  普通だったら、そんな言葉を聞いても、自暴自棄の様になっていて、ついそんな事を言ってしまったくらいに思うかもしれない。  でも、その時私の背筋は凍りついてしまい、もしかすると私は、考えたくなくて、思い付かない様にしていたのかもしれない。  彼は、死のうと思っているんじゃないか?  彼の中には、いつまでも前の彼女がいる。自殺をしたその子と、同じ道を歩こうと思ってしまう事があるんじゃないかと思った。  でも私は、その事を考えない様にしていた。自分の身近で、そして、一番大切な人が、自殺をするかもしれないなんて考える事が出来なかった。  でも、彼の中で、死というものはきっと近くにいて、いつも頭の片隅にはそいつが巣を作って、見張っているのだと思った。  そして彼は、もう私に、心を開く気は無い様に思えた。三人で遊びに行こうというのも、もう二人きりの、深い関係になろうとしていない様に思えた。  ずっと諦めずに彼を追い続けて、やっと彼からの愛を貰えたと思ったのに、また彼は遠い所に逃げようとしていた。  私は、もう考える事をやめてしまいたかった。  ただ、どんなに心がすり減っていたとしても、彼の事を考えてしまう自分がいた。  何の解決策もないのに、明るい気持ちにもなれないのに。この頃の私は、毎日同じ祈りを繰り返す事で、嫌な事で頭が埋め尽くされない様にしていた。  単純な願い。   「幸せになりたい」   「二人で」  
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