****大魔郷縁起(魔界語訳版)****

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 魔術大師様がこの世界に降り立たれたのは、旧暦452年(新暦0年)の事である。魔術大師様は、どこまでも真っ黒で前も後ろも分からぬ暗闇の世界で、絶望に苛まれながら喘いでいた我々の祖先たちの前に、天から降ってこられたかのように、突然と現れた。  魔術大師様はまず、その吸い込まれるような深く鮮やかな赤色をした右腕を、天高く掲げられた。すると、魔術大師様の腕は神秘的な紅の光を発し、やがて空を染める暗闇は割れ、地面を這う漆黒は裂け、我々の祖先たちは救いの光に包まれた。  次に魔術大師様は、我々の祖先たちに、広大で美しい街と、知恵をもたらした。そして魔術大師様は、我々の祖先に向かって、こう呼びかけられた。  「民よ、いま我々は、偉大なる理想郷、大魔郷を前にしている。我々は、我々と我々の子孫の幸せのため、この世に生を受ける真の喜びを享受し、魔術文明とともに未来永劫栄えるべくして、その壮大な世界の歴史の一ページ目に立っているのだ。民よ、今こそ永久の幸せへの道をたどる使命を胸に、歩きはじめるのだ」  我々の祖先たちは、この魔術大師様の御言葉に大いに心を動かされ、魔術大師様とともに、魔術文明の世界に生きることを決意したのだという。ここに、我等が大魔郷が誕生した。  それから我々の祖先たちは、魔術大師様の創り出された魔術文明の世界で、一切の苦しみを排した、この上なく幸せな日々を送りはじめた。、  ところがあるとき、二人の人間が大魔郷に現れた。彼らは魔術大師様と同じ魔術の力を用いて、あろうことか、魔術大師様の殺害という、口に出すのも恐ろしいほどのあさましき愚行を働こうとした。  しかし魔術大師様は、彼らの魔術による攻撃をものともせずに、圧倒的な御力で、彼らをこの世界から追放なされた。大師様の御力は、我等の祖先をお守りになったのである。  このニ大反逆者の起こした反乱によって、魔術大師様の御力は、さらに世に広まった。魔術大師様こそが、この堕落した世界に革命を起こされ、人々をお救いになる神であることは、もはや疑う余地もなかった。人々は、魔術大師様のもたらす魔術という名の幸福によって、永久に理想郷での素晴らしい生活を送ることができるという、ありがたき運命を受け入れていたのだった。  こうして、一点の曇りもない、汚れなき理想郷が、ここに完成したのである。我々が日々当たり前のように生きている、この魔術文明の世界は、このような魔術大師様の救いの手があってこそのものであることを、忘れてはならない。  大魔郷の民は、我等が魔術大師様の輝かしき功績と、その大海よりも広く深い御心を、知らなければならない。   大魔郷の民は、我等が魔術大師様の輝かしき功績と、その大海よりも広く深い御心を、子孫に伝え、継承しなければならない。  大魔郷の民は、我等が魔術大師様の輝かしき功績と、その大海よりも広く深い御心を、永久に忘れてはならない。  我々は、この理想郷、魔術文明の世界に生きるのならば、魔術大師様を畏れ崇めるべきであり、それが魔術大師様への底知れぬ感謝を表現する、唯一の手段であるのだ。………………………………………………………
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