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「いえ、それとこれとは別です。そんなことよりも、今の私は戦いに来たんです」
「戦いって、なんだか物騒な話だね。ひょっとしてヒトミちゃんって元ヤンだったとか?」
「先輩の軽口には乗りません。それよりも今日は前に聞かれた質問に返答するためにきました」
「質問って、ひょっとして頑張る理由?」
白田が退職してから半年も経っている。
さすがに覚えてはいないか、と思っていたが杞憂に終わった。
それなら話は早い。
「はい、私自身の問題です。ちゃんと聞いてくれますか?」
「挑み続けている限り、負けじゃない」」
「それって私があの時、先輩に言った言葉……」
「そう。あの時の言葉で俺はこうして挑むことができた。話をする前に、少しだけ時間を頂戴」
一美は半年も待った。
残業が終わった時に抱いた白田への想いを伝えるために戦い続けた。
今更、数分待つことに抵抗はない。
「はい、どうぞ」
白田の手には作りたてのクレープが握られていた。
「あの、コレって?」
「もちろん、俺が作ったクレープ。それを食べてからでも、いいんじゃない?」
先輩後輩の関係ではなくなったのに、一美は変わらず白田のペースに振り回されている。
「戦い続けている一美ちゃんへ、俺からの返答ってことで」
「え、先輩。今私の名前……」
「俺はもう先輩じゃない。まぁそんなことはいいから、食べて」
戸惑いながら、一美は白田が作ったクレープを食べた。
「……とっても、美味しいです」
もっと食リポのような上手い表現はできないのかと、一美は自分の語彙力のなさを呪った。
しかし、それしか言葉は思い浮かばなかった。
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