予定調和のフィナーレ

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予定調和のフィナーレ

 秋から冬に変わる季節。  夕方、朱色と群青色が交わる、雲一つない空に一美は目を止めた。  肌寒くなり、コートを閉じると道ばたに停車しているキッチンカーを見つけた。  女子が好みそうなピンク色にクレープの看板が立てかけられている。  「いらっしゃ……」  車に近づいた一美に気付いたのか、社内から男が声をかけた。 「久しぶりですね、白田先輩」 「俺が作ったクレープ、食べる? 今日のお勧めは安定のバナナチョコ」  相変わらず白田はいつもと変わらない様子だ。  変わっているのは、スーツからエプロン姿になったことだ。 「先輩は記念パーティーが終わったら退職しようって決めていたのですか?」  回りくどいことはせず、直球でずっと聞きたかったこと質問を口にした。  ここに来た時点で一美の決意は白田に伝わっている。  脱サラした人にわざわざ会いに来ることは決して、軽い理由ではない。 「いや、全く」 「そうですよね、白田先輩が思い付きで行動するなんて……え、今。ひょっとして否定しました?」 「あぁ、ヒトミちゃんの言う通りコレは思い付きでの行動」 「そんな、あの冷静沈着な先輩に限ってそんな、浅はかな……」  白田の口から発せられるヒトミちゃん、という響きも一美にとっては懐かしく感じる。 「おやおや、ヒトミちゃんの中の俺の評価って、そんなにも高かったんだ。それで、幻滅した?」  ニヤニヤと白田が笑う。  この軽口も久しぶりだ。
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