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「ヒトミちゃんは、なんでそんなに頑張れるわけ?」
やはり、白田の様子がおかしい。
そう感じる一美はもっと話を聞こうと話題を考えるが、その前に質問されてしまった。
「なんでって、それは……」
「仕事だから。生活するためってのは分かるさ。けど、そういう類の話じゃなくって」
「えっと、その。私……忙しいので後で聞きます!」
強引に白田からの質問を回避すると、一美は再び数値と格闘を始めた。
一美にとって、頑張るというのは普通のことであった。
大学を卒業して就職。まだ半年しか経っていない。
新人研修を終えたが、つい先日まではまだ学生だった。その気分が完全に抜けたわけではないが、社会人としての決意は抱いている。
同僚や他の先輩たちが退勤した時は夕暮れだったが、窓ガラスから見える空には月が上っている。
いつもと変わらない町の姿だが、社会人となって自分からは違う景色に見えた。
することが勉強から働くことで、心境の変化があったのかもしれない。
それでも私は私だと、一美は自負する。
一緒に働く先輩たちも厳しくも優しいし、もちろん仕事も楽しい。
できなかった事がドンドンできるようになるのは、自分が成長しているようで更に気持ちが高揚する。
今こうして残業しているが、これを乗り越えた時の自分は前よりももっと成長していると興奮する。
時間が惜しい。
子供の頃、両親から言われた言葉を思い出した。
「可能性は無限大だが、時間は有限だから」
最初は言っている意味が分からなかったが、今は理解できる。
「頑張る理由は自分のためです」
白田からの返答に一美は内心で答える。
実際に言葉にするのは何だか恥ずかしい。そして、もう一つ頑張れる理由が一美にはあるのだが、それは白田の前ではとても恥ずかしく言えない。
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